日本獣医内科学アカデミーに参加して

2月7日(金)~9日(日)の3日間パシフィコ横浜で日本獣医内科学アカデミーの第10回記念学術大会が開催された。この大会は52の学会・研究会・一般社団法人・公益社団法人が一同に集まって毎年一回開催される大きなイベントです。

印象に残ったアップデートの内容をいくつかご紹介します。

今年6月頃に販売される予定の分子標的薬「トセラニブ」の作用機序から適用方法、そして副作用についてのわかりやすい解説があった。分子標的薬は従来の化学療法剤と異なり、がん細胞に特徴的な分子が標的になる。また化学療法剤は多くが細胞障害毒性なのに対し、分子標的薬はシグナル伝達阻害や血管新生阻害なので、生体への影響がごく少ない。しかも治療のゴールは化学療法剤は腫瘍の消失や縮小にあったのに対し、分子標的薬はそれ以外にQOLの改善にもつながる。もちろん副作用は化学療法剤よりかなり少く、そのほとんどが対症療法で改善する。但し治療の適応は皮膚がんの肥満細胞腫がメインだが、外科手術に取って代わるものではない。また肥満細胞腫以外の悪性腫瘍(一部の固形癌)にも奏効する可能性がある。

犬のアトピー性皮膚炎の新しい減感作療法:動物のアトピーの原因となるチリダニ科は、コナヒョウヒダニとヤケヒョウヒダニの2種が反応を起こすダニの半分以上を占める。そしてコナヒョウヒダニの主要アレルゲンであるDer f2が犬のアトピー性皮膚炎の主要アレルゲンの1つであることがわかった。このDer f2にブルランというアジュバントを結合させたワクチンによる減感作療法が今後期待される。

最近注目されてきたメトロノミック化学療法:少量の抗癌剤を毎日投与する方法で、人ではリンパ節浸潤のある乳癌や前立腺癌、メラノーマ、卵巣癌、多発性骨髄腫、び慢性大細胞型リンパ腫、などに奏効する可能性が示された。獣医領域では脾臓の血管肉腫や軟部組織肉腫の術後補助化学療法として着目されている。メトロノミック化学療法の作用機序は血管新生抑制や抑制性T細胞の抑制による抗腫瘍効果などが示唆させれている。化学療法剤としてシクロフォスファミド、シタラビン、CCNUなどを使用した治験例があるが、いずれも副作用がごく少数ではあるが出現している。しかも従来の使用量の多い抗癌治療から見たらかなり軽度で十分容認できる範囲だ。メトロノミック化学療法はこれからは術後補助化学療法としてだけでなく、切除不能な固形癌に対する化学療法についての検討がなされ始めた。

低悪性度リンパ腫の症例で軽度の貧血プラス総白血球数が少なく2700~6300で、好中球がやはり少なく1400~2000くらい、リンパ球はやや少なめといった症例で骨髄内の細胞を見てみると小型成熟リンパ球が30%以上も占めており、各種表現型解析やTCRの遺伝子再構成などから低悪性度リンパ腫だったことが判明したという。このような数値を示す犬猫は日常臨床で結構多いので、注意が必要と感じた。

血液検査で成熟好中球と血小板減少症のある犬の骨髄吸引検査で骨髄球系と巨核球系の過形成が認められ、免疫抑制療法で反応が見られたことから免疫介在性好中球減少症および免疫介在性血小板減少症が同時に起きたと考えられる非常に珍しい症例。

先天性中枢神経疾患はMRIおよびCTの評価が必要:主な疾患に水頭症、頭蓋内くも膜嚢胞、後頭骨形成不全症候群(キアリ様奇形)、環軸不安定症、環椎後頭骨オーバーラップ、環椎軸椎背側圧迫などがあるが、それぞれが独立した疾患ではなく、後頭骨頸椎移行部における先天性の骨形成不全に起因し、小脳あるいは上部頚髄が圧迫される一連の症候群として考えられるようになってきた。

この他にもポリペクトミーの実際の手技における注意点や猫の難治性口内炎の全臼歯抜歯(60~80%の有効率)と全顎抜歯の効果と抜歯のこつなど興味のある内容が多々あったので、すぐにでも明日の診療に役立てるつもりで勉強をしてきた。