8歳の犬の先天性耳道閉鎖

症例は8歳のイタリアングレイハウンドで、飼い主によると子犬の時から右耳の穴が無かったが、今まで何も異常なく経過してきた。ところが3ヶ月ほど前から右耳の辺りをさわると怒って咬み付こうとしたり、口を開けることが出来なくなってきた。特に最近になって食事を食べなくなってきたという主訴である。実際に診察してみると耳道が全く無く(写真①)触診により、耳介の軟骨はあるがそれに続く垂直耳道の軟骨が無く、水平耳道の位置から軟骨らしいものが触知される(写真②)。X線検査では耳道内の空洞が無く液体様の陰影がみられるくらいだったが、CT検査(写真③④)をしてみると、耳道周辺にも無構造のスペースがあり、血液検査で白血球増多(好中球増多)があり、細菌感染も疑われたため、膿瘍になっている可能性もあった。ただ3D画像のCTを見ると(写真⑤)骨胞は僅かな変形はあるものの、骨融解も目立つものはなく、構造は左右対称的に存在していた。

飼い主のご要望で手術をすることになったが、切開してみないと、分からない部分もあった。皮膚を切開し、術前に触知する軟骨様部分を露出した(写真⑥)。この軟骨は垂直耳道の一部だと思われる。この部分を切開すると中には分泌物や耳垢がぎっしり溜まっており(写真⑦)、まずはこの耳道内の耳垢の細菌培養・抗生剤感受性テストのサンプリングをしてから、温生食で耳道内を充分洗浄した(写真⑧)。耳道軟骨周辺は液体や膿様のものは存在せず、腫大したリンパ節や唾液腺が存在するだけだった。周囲の皮下組織は通常通り縫合し、軟骨を部分的に成形切除し皮膚と耳道壁を結紮縫合して終了した(写真⑨)。結論として非常に稀な症例だが、閉鎖環境にあった耳道内に耳垢が蓄積して起きた外耳道炎を伴った先天性耳道閉鎖と診断した。術後は順調に経緯し、4日後には退院した。写真⑩は抜糸直後。

写真①

写真②

写真③       写真④

写真⑤

写真⑥

写真⑦

写真⑧

写真⑨                                  写真⑩抜糸直後

 

 

 

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