犬の機能性甲状腺癌

最近痩せてきているとのことで来院したゴールデン・レトリーバー。
血液検査(血球検査、血液化学検査、SDMA)では異常はなく、胸部・腹部のレントゲン検査でも異常はありませんでした。
身体検査をしたところ頚部に約5㎝の腫瘤が見つかり、その部位の超音波検査では腫瘤に多くの血管が見られました。
太い血管を避けるように細胞診検査を行うと赤血球を主体として上皮細胞がシート状に採取されました。ここまでの検査で甲状腺癌を強く疑いました。
犬の甲状腺癌の場合、多くが非機能性ですがこの症例では痩せてきているために甲状腺ホルモンを測定してみると、
・血清総サイロキシン(T4):7.8 g/dL(参考基準値 1.0〜4.0)
・遊離サイロキシン(FT4):>77.2 pmol/L(参考基準値 7.7〜47.6)
・犬甲状腺刺激ホルモン(c-TSH):0.02 ng/mL(参考基準値 0.05〜0.42)
であり、多量の甲状腺ホルモンが分泌されているために痩せてきている可能性が示されました。

腫瘤の触診では固着はないために手術が可能と判断し、オーナー様と相談のうえ甲状腺腫瘤摘出を行うこととなりました。(腫瘤が筋肉や血管とくっついていると手術は難しくなるために放射線治療が選択されることがあります)

写真は手術中のものです。白く見えているのが気管、その左にある塊が甲状腺腫瘤です。

摘出した腫瘤の病理組織検査では『甲状腺癌』と診断されました。
手術後の甲状腺ホルモンの測定では低値を示し、甲状腺機能低下症の状態になっているため現在は甲状腺ホルモンの補充治療を行なっています。

犬の甲状腺癌で転移が見られずに完全切除できた場合は、外科治療単独でも平均生存期間は3年以上との報告があります。(一方、固着性で不完全切除であった場合、平均生存期間は10ヶ月、1年生存率は25%)
本症例では完全切除ができており、転移病変も見つかっていません。
オーナー様との相談で、化学療法は行わずに定期的に再発・転移をチェックしていくことにしています。

中年以降の犬では日常的なスキンシップの中で体にシコリができていないかをチェックして、何か発見した場合は早めに病院に来院して下さい。

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