老齢のヨークシャーテリアの腎臓の線維腫症

10歳の去勢雄のヨークシャーテリアが健康診断の際にX線検査とエコー検査により、左腎臓の腫瘤と肝臓の外側右葉のやや高エコーのマス様病変が見つかった。左腎の腫瘤のFNA(針生検)では採取された細胞が少ないのと、線維細胞様の非上皮系細胞が少数とわずかな好中球くらいしか見られなかった。炎症性の腫瘤ではないので腫瘍の可能性が高かった為、血液検査や尿検査、さらに血管造影をして、腎機能が正常で右の腎臓も機能がしっかり働いていることを確認したうえで、飼い主の方の同意も得られたため、腫瘤のある左腎の全切除および肝マスの部分切除による両方の病理組織検査をすることになった。術後も順調に回復し、念のため腎機能の保護の意味もあり、点滴治療を数日して退院となった。術後の病理組織検査での診断は左腎の腫瘤は線維腫症ということだった。線維腫症とは線維組織の良性腫瘍、反応性増生、特発性過形成等の総称とされる。治療は一般的に切除によって治癒するとある。肝マスの病理組織検査は確定診断には至らなかったが、肝細胞癌が形成されつつある可能性もあり、慎重な経過観察が必要とのコメントだった。    写真はX線写真(見やすいため血管造影写真)と腎・肝のエコー検査の写真、術中・術後の左腎と肝マスの術前術後。

 

 

インド犬(パリア犬)の老犬に起きた腸間膜癒着が原因の便秘

13歳の雌のインド犬が4日前から急に便が出なくなったので、近医に診ていただいたがはっきりしたことが分からず、大学病院を紹介したい旨を伝えられたため、過去に掛かったことがある当院に来院した。X線検査の単純撮影では骨盤腔手前まで糞塊がきているが、その先にはガスがいくらか残留しているだけという状態で、はっきりしたことが分からないため、肛門からカテーテルを介して造影剤を注入して評価してみたところ、下行結腸の途中から急に細くなりさらに蛇行して糞塊の溜まった大きな結腸に続いていた。つまりそこは何らかにより絞扼または狭窄する原因があることが判明したため、開腹することになった。その結果、腸間膜の一部が結腸に癒着し、しかも腸間膜の破れたところから結腸が蛇行して入り込んでいた。従って癒着部分を切断し、結腸の位置を戻すことで解決した。術後は大量の便が2日間に渡って5~6回も排泄された。写真は直腸造影のX線写真と術中の写真。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咽喉頭に異物(棒のついた乾燥肉の塊)が閉塞した犬

10歳雄のキャバリアキングチャールススパニールが呼吸困難で来院した。レントゲンで咽喉頭に異物が閉塞しているのが分かった為、鎮静麻酔下で摘出した。あと数分で低酸素症で亡くなっていたでしょう。

X線写真と飲み込んだおやつの包装紙。

猫の非再生性の免疫介在性溶血性貧血及び免疫介在性血小板減少症

8歳の日本猫が2か月ほど前から少し元気なく、最近元気食欲なし、粘液性のよだれの症状で来院。身体検査で発熱(39.7℃)粘膜・皮膚の貧血色があった。血液検査(完全血球検査・血液化学検査)でヘマトクリット18.4%で非再生性貧血、総白血球数正常でストレスパターン、ヘモプラズマの赤血球寄生、血小板減少症(48000)、グロブリンやや高値、以前FIV(+)であった。まずは静脈点滴とヘモプラズマの駆虫のためテトラサイクリン系抗生剤の内服したが、嘔吐が出てしまうため、中止して静脈点滴と制吐剤、食欲増進剤で胃腸の調子を戻してから、エンロフロキサシンの注射に通っていただいた。ヘモプラズマが見られなくなったにもかかわらずその後ヘマトクリットが17.8%とさらに下がってきたため、輸血も始めた。輸血後、骨髄のバイオプシーも実施して細胞診をしたところ、骨髄球系の過形成と赤芽球系の軽度の低形成(好塩基性赤芽球まではあって、それ以降の細胞成分に乏しい)があり、巨核球は少ないが裸核のものが存在する。つまり骨髄内にはある程度の分化段階のものが存在するのに末梢血液中の主に赤血球や血小板がかなり少ないのは骨髄を出てから免疫介在性に破壊されている可能性が高いためだと考えられる。そこで免疫抑制剤としてステロイドの高容量を開始した。その結果反応して数日でヘマトクリットが35%まで上がった。しかしその後貧血が徐々に進行し、ステロイドを3mg/kgまで増やしたが、免疫低下による細菌感染症や発熱もあって減量せざるを得なくなり、現在ヘマトクリット20.2%、血小板33000、総白血球数(好中球)正常で維持しているが、油断はできない状況だ。今後汎血球減少症になるようであれば骨髄異形成症候群なども考えなくてはならないだろう。写真は骨髄塗抹と血液塗抹標本。

血液塗抹

 

 

 

 

血液塗抹

 

 

 

 

骨髄標本

 

 

 

 

骨髄標本

 

 

 

 

 

猫の悪性神経鞘腫

5歳の日本猫の陰唇部に以前から少しずつ大きくなってきた腫瘤が最近目立ってきた。避妊手術と一緒にこの腫瘤を摘出することを希望。手術した後の病理組織検査結果は低悪性度の悪性神経鞘腫。手術マージンには腫瘍細胞は(-)脈管浸潤もなし。将来は遠隔転移はないものの局所再発はあり得るので、定期的な観察は必要。

 

 

 

 

眼球突出の整復手術

犬同士のケンカ騒ぎでチワワに大型犬がぶつかったか、口が当たったかで眼球が突出してしまったということ。救急で来院し、すぐに整復手術になった。眼球を押し戻しつつ、眼瞼の縁に糸をかけて4糸程縫合し、術後は1週間~2週間で抜糸する。視神経や網膜などの損傷があると術後も視力が戻らないことがある。

写真上が損傷後、下が術後

 

 

ゴールデンレトリーバーの皮膚形質細胞腫

高齢のG・レトリーバーの指間の皮膚腫瘤が1か月くらいで大きくなってきたという主訴で来院。細胞診をしたところ円形の独立した腫瘍細胞が多く見られた。一見、組織球種のような円形の細胞で核も円形であったが、よく見ると細胞が楕円形のものが多く核のクロマチン結節の構造がリンパ球のようにも見えるものが多かった。また核の悪性所見は少なく、核分裂像もほとんどないので、悪性の腫瘍ではなさそうだった。指間部ということで拡大手術はできないため、最小限の摘出手術になった。病理組織検査の結果は皮膚形質細胞腫だった。皮膚形質細胞腫は髄外性形質細胞の一つで通常は良性だが、他に例えば孤立性骨形質細胞腫のようなものがあってそれが皮膚にできたりということもあるので、要注意ではある。

 

猫の皮膚肥満細胞腫の切除

最近急に大きくなってきたという高齢猫の皮膚腫瘤を細胞診(FNA)した結果、肥満細胞腫であることが分かった。猫は比較的良性タイプのものが多いが、表面に潰瘍があり、直径2センチ大で増大傾向があるため、万一悪性だったことを考え、周囲2センチ以上のマージンをとり、深さ方向にも筋膜と皮筋も切除することにした。幸いなことにリンパ節腫大や脾臓や肝臓などの腹部臓器には腫瘤病変はなく、胸部にも異常がなかった。術前と術中、術後の写真を下に示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上皮系悪性腫瘍による猫の胸水の2例

いずれも①12歳と②13歳の高齢の猫で呼吸促拍、元気食欲なしまたは低下という症状で来院。2頭ともX線検査で胸水の貯留があった。

①の猫さんは血液検査で慢性腎不全になっていたが、腹部X線検査と超音波検査で右腎の萎縮と腎盂内の結石の存在と左腎の肥大と形の不正・腎臓内の構造の異常などから腎臓の腫瘍を疑い、左腎の針生検を実施したところ、採取できた細胞から上皮系の悪性腫瘍が疑われた。また胸水の性状は比重や有核細胞数から変性性漏出液であり、沈査の細胞診で、やはり上皮系の悪性腫瘍の疑いが濃厚であった。この猫さんは胸水の抜去により呼吸がある程度改善したが、腎不全も存在していたこともあり、状態は余り良くなかった。しかも1週間もたたないうちにレントゲン上で肺の病変がかなり悪化。そこで少しでもストレスのない自宅で一緒に過ごす時間を増やしていただくため、業者さんに酸素ボックスと酸素発生器のレンタルをすることになった。それから約一週間後くらいに呼吸困難になり、自宅に往診で伺ったが、その場で自然に近い状態で亡くなった。恐らく肺の腫瘍と腎腫瘍との関連性がありそうだった。

上の写真(右が来院時・左がその1週間後の胸部)下の写真(左右の腎臓のサイズと形状の違い・抜去した胸水)

②の猫さんは食欲の低下はあったが、少しずつは食べていたそうだ。但し、胸腔内の液体貯留が大変多く、その抜去した胸水は変性性漏出液でこの液の沈査による細胞診ではかなり悪性度のある上皮系の腺癌のようだった。肺実質にすでに上皮系悪性腫瘍が存在し、抗がん剤などの化学療法は難しい状況だった。そこで腫瘍に少しでも抑制効果のある非ステロイド性抗炎症剤(NSAID’s)とβ-グルカンの豊富に含まれたサプリメント、そしてホメオパシーを応用したドイツの歴史あるホモトキシコロジー療法により、2回胸水を抜いただけでその後次第に胸腔内の水分が減少してきた。しかも元気や食欲も改善し、全体に活発になってきた。今後少しでも良い状態で過ごせることを願いたい。

上の写真(左が初診時・右は1回目の胸水の抜去後の胸部X線写真)

胃の内視鏡による多数の胃内異物の除去

中年の雑種犬がおもちゃのぬいぐるみを解体して、中にある音の出る円形プラスチック製の部品(直径4cm程)を19個飲み込んでしまったということで救急来院した。飲んで間もなかったので、症状は全くなかったが、催吐処置をするには異物が大きく、手術はできるだけしたくないという要望がありましたので、内視鏡で取り出すことになった。物がプラスチックだということと、この日は食事をたっぷりした後だったので、レントゲンにははっきりした異物は写し出されていません。ただ間違いなく飼い主が飲み込むのを見ていたのですからこれを取り出すしかないということです。結局1回の内視鏡処置ではフードが多すぎて、それに異物が隠れてしまって限界があったため、9個分だけ摘出して、翌日の胃内のフードがなくなってから、残りの異物を取り出すことになった。写真は胃カメラで見た胃の中の状態(右にバスケット型異物鉗子・中央に異物)と取り出した19個の異物です。