フラットコーテッドレトリーバーの前肢(関節周囲)の組織球肉腫と断脚手術

8歳のフラットコーテッドレトリーバーが10日ほど前からやや跛行があり、3日前から左前足を挙上、他院にてステロイドを処方されたが、改善しないということで、来院した。身体検査では左前肢の肘と肩の皮下に腫瘤(X線写真でも確認できる:写真①)を触知、またX線検査では上腕骨近位に骨融解像(写真②)がみられた。さらに針生検による細胞診ではかなり悪性度の高い独立円形細胞が多く見られた。後日肘と上腕に触知できた腫瘤のオープンバイオプシーを実施、病変部の生検材料の病理組織検査を実施した。その際、不運なことに胃捻転を起こし、急遽胃捻転の修復手術及び胃固定術を実施した。後日病理組織検査結果が届き、予想通り、「組織球肉腫(悪性組織球症)」であった。胃捻転手術の抜糸が終わり、左前肢はその後浮腫が進行したり、皮下の内出血や腋下リンパ節の腫大が起きてきたのと、フェンタニールを使用しても疼痛管理が難しかったため、飼い主の方と充分相談した結果、前肢の断脚手術(写真③④)を実施した。その後は充分な疼痛管理をし、貧血傾向が強かったことから輸血も実施した。その結果状態はしだいに改善し、三本足歩行にも慣れて、かなり歩けるようになっていった。術後、術創内の漿液が長めに溜まっていたため、結局術後一ヶ月の検診で身体検査や画像診断をした結果、後肢の皮下に3ヵ所、直径2cm弱と6mm、5mmのサイズの腫瘤を触知した。そこをFNA(針生検)による細胞診をした結果、以前と同様の組織球肉腫と思われる腫瘍細胞が認められた。また脾臓には低エコーの小さなマスも存在していた。その為化学療法(CCNU)の治療を開始した。本人の様子は至って健康そうで、元気や食欲は全く以前と変わらない。歩き方も大分慣れてかなり早く歩く事も出来る(写真⑤)。

上から順に写真①②③④⑤

中年齢の雑種犬の胃腺癌

一ヶ月前から下痢と嘔吐があったが、他院より頂いていた数種類の薬を内服していたが、治らないということで来院。ルーチン検査をしたところ、血液検査では膵炎の検査を含めて実施したが、何も異常はなかった。しかしX線検査と超音波検査の結果、胃内の大量の胃液とガス、胃壁の肥厚、胃の小湾にあるリンパ節の腫大、十二指腸の近位の壁の肥厚等が見られた。また胃の内視鏡検査では胃底部の中央から幽門洞まで胃壁の肥厚が見られ、胃の拡大をしようとしても皺壁が伸びない状況だった。そのため胃壁の肥厚部のバイオプシーを数ヶ所実施した。さらに飼い主の方とご相談の上、試験開腹を実施した。開腹すると胃壁の重度の肥厚(中央から遠位すべて)と付属リンパ節の腫大がみられたため、それぞれバイオプシーを実施した。可能であればビルロート法で手術も視野に入れたが、飼い主の方はそれ以上の負担は掛けたくないと希望でしたので、胃液や胃ガスを抜く為の胃チューブの設置とこのチューブから空腸チューブを装着する方法で体力の維持に勤めるようにした。病理組織検査の結果は胃腺癌だった。胃の腺癌は腫瘍全体の1~2%といわれ余り多くはない悪性腫瘍だ。浸潤性や転移性が強く悪性度は高い。術後は制吐剤はもちろん潰瘍治療剤粘膜保護剤等を中心に治療し、空腸チューブからの栄養補給を実施した。若干体力がついて一時的に元気にはなったが、17日目に夜中の救急病院に呼吸が急に苦しそうになったということで診ていただいたが、その後亡くなった。恐らく誤嚥性肺炎の可能性があったと思われる。もう少し早めの検査や処置ができていたら寿命もある程度延ばせたかもしれません。写真①(エコー検査による胃壁の厚みと隣接するリンパ節)写真②(エコー検査による十二指腸壁の肥厚)写真③④⑤(胃カメラによる胃壁および幽門の肥厚像とバイオプシー鉗止による採材)写真⑥(試験開腹の際の胃の全体写真)写真⑦(胃チューブと空腸チューブの設置後のその位置関係を示すX線写真)

 

猫の骨盤の複雑骨折修復術

ある方が交通事故により道路に横たわっていた猫を発見救助し、当院に連れて来られた。当初は激しい痛みからか攻撃してくるような猫だったが、点滴や鎮痛剤を使ってからは鎮静効果が出てきた為か、かなり穏かになった。レントゲン検査で骨盤の左側の腸骨で骨折し2つの骨片も存在している。また右側の恥骨が股関節にかかって骨折しており、その他に2ヶ所で折れていた(写真①)。またまずいことに腰椎の第1-第2でずれており、両後肢は深部痛覚なしだった。左側胸部の中等度の気胸もあった。さらに血尿もあった。血液検査では肝酵素も上昇ということから、ほぼ全身打撲ということだろう。三日間の点滴とICUでの酸素療法により対症療法を行ない、一般状態の改善と気胸の改善、膀胱破裂のないことの確認などがクリアーになったところで、骨盤骨折の修復を行った(写真②)。Kワイヤーと螺子およびDCP(プレーティング)で修復した。

シーズーの尿道狭窄による尿閉

老齢のシーズーが尿意はあるが尿がほとんど出ていないという症状で来院。尿検査結果とX線検査結果から、小さな尿路結石(膀胱内・尿道内)を伴う重度な尿道狭窄が存在することが分かった(写真①)。そのためペニス内の尿道を切開して尿道廔形成術を行った。切開部位は陰嚢のあった部分で行った。(写真②③)

 

 

写真①尿路造影(矢印が狭窄部)

 写真②

 

 

写真③抜糸後

トイプードルの撓骨尺骨骨折の修復術

1歳半の体重1.8kgのかなり小さめのトイプードルが二階くらいの高さのところから落下し、右前足を骨折、撓骨の骨折端が一部皮膚を貫通して、哆開骨折となり、来院時その部分の皮膚から出血があった。レントゲン検査で撓骨尺骨骨折部は手根関節に極近かったが(写真①②)小型犬用のT字型プレートと螺子を用いて修復した(写真③④)。

 

 

 

 

写真①②

写真③④

 

 

 

 

 

猫の全眼球炎から眼内容の脱出と壊死を呈した症例

目の外傷から進行して角膜潰瘍、感染による全眼球炎、そして眼内容の脱出、壊死となったと思われる若い日本猫が来院し、視力の回復は当然無理であり、感染の進行によっては生命に関わることもあった。飼い主様と相談の結果、眼球摘出手術をすることになった。下の写真は術前、術中、術後のもの。念のため眼球内の液体を細菌培養による同定と感受性テストを実施し、術後の感染に対する準備も行った。

 

 

 

 

 

 

 

猫の尿道および膀胱内の結石摘出手術

中年齢の雄猫が尿を漏らすという主訴で来院。血液検査では腎機能の低下は軽度であり、画像診断ではペニス近くの尿道に大きめな結石が3個と細かい砂粒大のものが2~3個、膀胱内には大きめのものが2個確認できた。手術前にカテーテルで尿道内の結石を膀胱に戻す処置をし、それから開腹手術を行なった。術前のX線写真と術中と術後摘出した結石の写真を下に示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

老齢の犬の前立腺膿瘍の外科手術

老齢のミニチュアダックスフントが最近やや頻尿で尿が出にくい様にみえる。またいつもと違うところに排尿をしたり、血尿になったりしているということで、診察をしたところ、血液検査では左方移動を伴う好中球増多、単球増多があり、レントゲン検査とエコー検査(写真①)により、前立腺に液体が貯留しており、かなり濁ったものが溜まっているようだった。尿検査では潜血反応があり、細胞診では変性した好中球が多数存在していたので、膿尿と言っても良い状態だった。これらの結果から前立腺の膿瘍と診断し、腎機能が低下していたこともあるため、静脈点滴と抗生物質等の治療をしてから、外科治療をすることになった。輸液治療3日後、腎臓の数値が改善したところで手術となった。前立腺を露出させ(写真②)、膿瘍内の膿を吸引(写真③)、吸引した膿は緑色を呈していた為(写真④)、前立腺に切開を入れ、膿瘍内をガーゼで壊死組織などを除去し(写真⑤)、もう1ヵ所の切開創から洗浄液を入れて、完全にきれいな液になるまで洗浄吸引を繰り返す(写真⑥)、その後大網を前立腺内を貫通させ(写真⑦)、反対側から出てきた大網を縫合した。最後に腹腔内全体を大量の温かい生理食塩液で洗浄し、局所の鎮痛剤を使用して閉腹した(写真⑧)。術後は経過が良く翌日から食べ始め3日目には食欲も元気も出て、以前よりも良い状態で退院した。

写真①         写真②

 

 

 

写真③        写真④

 

 

 

写真⑤        写真⑥

 

 

 

写真⑦       写真⑧

 

 

 

 

ビーグル犬の鶏卵大の膀胱結石の摘出手術

9歳のビーグルが以前より頻尿や少量の出血があったようですが、ここ数日元気や食欲が無くなってきたということで来院された。触診で膀胱の位置に硬いボール状のものが触知できたので、血液検査などのルーティン検査とX線検査さらにエコー検査を実施したところ、下の様な大きな膀胱結石(写真①②)が存在し、それが原因して腎臓は尿管から膀胱に尿が流れ難くなった為に起きた水腎症(写真③)になっていた。子宮内には液体が少量貯留しており、白血球増多と子宮内膜炎から蓄膿症(写真④)になってきているようだった。来院当日から静脈輸液を開始して、脱水と電解質補正、腎機能の改善をはかった。翌日に手術となり、膀胱結石の摘出(写真⑤⑥⑦⑧)と卵巣子宮摘出術を実施した。術後は腎後性腎不全ということになるので、結石を取り除くことで2日目にはBUNやCreは正常になり、元気も出てきた。

写真①        写真②

写真③        写真④

写真⑤        写真⑥

 

 

 

写真⑦        写真⑧

皮膚欠損を皮膚形成外科により修復

耳介の後方(裏)の皮膚の哆開部の化膿により、壊死した皮膚を切除した後、皮膚の欠損部が大きく通常の縫合で閉鎖した場合、耳介が後方に引きつられ、形成上違和感が出てしまう為、皮膚の前進皮弁(フラップ)による修復術を実施した。経過も良く皮膚形成学的にも大変綺麗に治癒した。