老齢のウェルシュコーギーの多発性骨髄腫(形質細胞腫)

12歳のウェルシュコーギーで2年前に保護センターから来た保護犬で当初より後駆麻痺があり、歩行ができない状態だったが、今回ワクチン接種のための健康診断をすることになり、血液検査も実施した。その結果、血清の総蛋白10.5グロブリン7.8カルシウム12.2、蛋白分画ではγグロブリンのスパイク状の上昇等が見られたため、X線検査を実施したところ、右大腿骨が重度のパンチ様骨融解があり、その他に第2腰椎棘突起、右尺骨近位、右手根骨にも同様の骨融解像があった。おそらく椎間板ヘルニアかウェルシュコーギーの遺伝的疾患の変性性脊椎症が存在している可能性もある。このことが後肢の激しいパンチ様骨融解があっても、幸いなことに後駆が麻痺し、ほとんど疼痛がなかったのでしょう。骨の融解している病変部の針生検による細胞診では形質細胞はある程度見られるが、同時に中型のリンパ球やリンパ芽球もかなり出現しており、Bcell型ハイグレードのリンパ腫になっている可能性があった。骨融解に対してはゾメタという骨の修復を図る治療とリンパ腫に対するステロイド剤+アルキル化剤などを使用した化学療法やCHOPベースの治療法などが必要だが、この子の今までの経歴や色々な事情と飼い主の方のご希望などもあって、なかなか理想的な治療の実施は難しいと感じた。ある程度対症療法を中心の治療になるでしょう。下の写真は最も骨融解の激しい大腿骨のX線写真です。

 

 

老齢猫の口腔内の扁平上皮癌

老齢の日本猫が、食欲が減少してきた、口の周囲がいつも汚れるようになった、下顎が少し腫れてきた、という主訴で来院された。飼い主の方は口内炎か歯の問題があるのではないかと思っていらしたようだったが、口腔内を見てみると右の下顎犬歯の後方の歯肉から舌下の粘膜にかけて腫瘤と壊死した白色部分があり、触れることをいやがっていた。この部分のスワブによる細胞診の結果、扁平上皮癌であることがわかった。飼い主の方とのご相談の結果外科手術や化学療法は希望されず、内科的な緩和治療を望まれましたので、自然療法の一つホモトキシコロジーや制癌作用のあるサプリメントなどで対応し、痛みが伴ってきたら、より強い鎮痛剤を使っていくことになった。下の写真はは口腔内の様子と顎の腫れを示している。

 

 

 

犬の耳介皮膚に認められた肥満細胞腫

13歳のミニチュアダックスフンドの耳介の皮膚に直径1.6cmと7mmの腫瘤があり、ここ2週間程で大きくなってきたということで来院。針生検による細胞診で肥満細胞腫と診断した。複数の肥満細胞腫が増大傾向があることから、切除手術となった。耳介は皮膚の余裕のない軟骨のサンドされた薄い構造の為、全層の切除とした。耳は段差が出来たり、湾曲する可能性があることを飼い主の方にご理解いただき、手術となった。病理組織検査では肥満細胞腫のグレードⅠ~Ⅱに相当するという結果だった。いずれも完全切除で脈管浸潤なしということだが、グレードⅠでは無いので、再発や転移は無いわけではない。したがって術後も注意が必要だ。写真は術前と術後。

 

 

高齢のミニチュアダックスフンドの肛門周囲腺腫

16歳の雄のミニチュアダックスフンドが最近肛門の右側に腫れ物が出来て大きくなってきたという主訴で来院された。腫瘤の成長が早めだったことと、排泄に支障を来たす可能性もあったこと、さらに16歳にしては血液検査上も画像診断上も問題なく、健康であったことから、飼い主の方との相談で摘出手術をすることになった。もちろん再発予防の意味も含めて去勢手術も同時に実施することになった。摘出後の病理組織検査では肛門周囲腺腫だった。これは良性腫瘍であり、雄は雌に比べ5.6倍も発生率が高い。去勢をしないと術後の再発率が40%だが、去勢することにより発生率が8%も低下する。但し腫瘍自体が完全に切除されていても、周囲に残存する腺組織から新たな腫瘍が発生する場合があるので術後も要注意だ。

下は術前、術中、術後の写真。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴールデンレトリーバーの下顎の歯肉に発生した線維肉腫

8歳のゴールデンレトリーバーの下顎に見られた腫瘤をバイオプシー(クサビ生検)した病理組織検査で線維肉腫疑いという結果が出た。CT検査で骨融解像が見られたことと、腫瘍の発育が早いこともあり、下顎の片側部分切除を実施した。術後の経過も良く翌日から柔らかいお団子状の処方食を手で与えたが全て完食した。術後の摘出した腫瘍の病理組織検査は線維肉腫であった。術後の手術部位の外観はほとんど今までと変わらず、一見したところ言われないと気がつかない顔貌である。

写真は術前のCT画像3D画像そして術前術中術後の下顎病変部、そして術後の切除した腫瘍と下顎骨、さらにそのレントゲン写真(骨融解が1週間前にCT検査した時より進行しているのが分かる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

犬の膀胱内と尿道内に存在したシリカ(ケイ酸塩)結石

中年の雄の雑種犬が背側の皮膚に大きな腫瘤が出来たということで来院。FNA(針生検)による細胞診では肥満細胞腫という皮膚癌だった為、手術により切除をすることになった。ところが手術当日の術前のレントゲン写真で膀胱内に2つと陰茎尿道内に1つ金平糖状の結石が見つかり、そちらも手術することになった。肥満細胞腫は病理組織検査でグレードⅡだったが、完全切除だったため、マージンには腫瘍細胞の脈管浸潤なしという結果だったが、一応定期的検査を実施することになった。

そして結石は分析の結果、とても珍しいケイ酸塩(シリカ)の結石だった。この結石は金平糖状を呈するが、時にストルバイト(リン酸マグネシウム・アンモニウム)結石や尿酸アンモニウム結石でも同様の形状を呈する。またケイ酸塩を豊富に含むトウモロコシグルテンや大豆粕の大量摂取にも関係していると言われている。雄に多くGシェパードやオールドイングリッシュシープドッグ、G・レトリーバー、L・レトリーバーに認められている。尿が酸性から中性で形成されるので、再発を防ぐには尿をアルカリに傾ける食事療法が必要となる。国内で手に入るものとしては、ヒルズのU/Dが最も適当な療法食といえる。

下の写真は肥満細胞腫の術前術後と膀胱内から取り出した大き目の結石と尿道内の2つの結石で、いずれもシリカ結石でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猫の腎臓のリンパ腫

6歳の日本猫が元気食欲低下、多飲多尿で来院した。血液検査では慢性腎不全があるだけだが、触診で右腎の肥大が触知され、超音波検査所見は内部構造の不整や形態の以上があったため、針生検を実施。細胞診では大型のリンパ芽球が多数見られた為、腎臓のリンパ腫と診断。飼い主の方と相談の結果、まずはL-アスパラギナーゼとステロイドの治療をすることになった。その後体調が良くなったらCOPという3種類の薬剤で治療することになった。左はレントゲン写真で大きな腎臓が分かる。その右の2つの写真は右腎と萎縮していた左腎。一番下は右腎の不整な構造を示すエコー検査の写真。」

 

 

 

猫の腎周囲偽嚢胞の皮膜切除術

8歳の慢性腎不全のある日本猫が、当初腎嚢胞として留置針による嚢胞内の液体を吸引をして対処していたが、吸引までの時間が次第に短くなってきた為、根本的な治療とは言えないが、腎周囲の皮膜を切除することで、中期的なコントロールができる可能性があるため、飼い主の方と相談の上、手術となった。術後の回復は順調で元々慢性腎不全はあるが、現在腎機能も安定し、普通の生活をしている。下の写真は順に手術前の腹部レントゲン写真2枚。術中写真と腎嚢胞内の液体900ccを示し、一番下の写真は術後のレントゲン写真。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大型の毛包上皮腫と肥満細胞腫を同時切除した犬

12歳のゴールデンレトリーバーの背側と腋下にあった腫瘤が最近大きくなってきたということで来院。針生検(ニードルバイオプシー)にて、背側腫瘤からは角化細胞主体の類表皮嚢腫のような細胞しか取れなかったが、腋下の腫瘤は皮下は脂肪腫、表皮の腫瘤は肥満細胞腫だったので、双方を切除することになった。病理組織検査結果は背側は毛包上皮腫という良性腫瘍で腋下は組織学的グレード分類(Patnaik)のグレードⅡに相当する肥満細胞腫という結果で、切除縁には腫瘍細胞が脈管内へ浸潤する像は確認されなかった。

写真①②腋下の腫瘤の術前術後

 

 

 

 

 

写真③背側の腫瘤の術前④術中⑤病巣の割面⑥術後

 

 

 

トイプードルの中耳内の耳垢腺癌

高齢のトイプードルが数ヶ月に亘る膿様の耳漏で元気もなくなっていた。レントゲン検査では骨胞内が充実性の物質で埋め尽くされており、耳道洗浄後の観察でも一見チーズ様の物質が充満していた。細菌感染を伴った中耳炎が存在し、中耳内には何らかの物質があったため、耳道内の環境の改善と、中耳内の精査のため耳道切開を実施した。その結果、中耳内には白っぽい肉片のような物質(写真①)がかなり存在していたが、そのほとんどを取り出すことが出来た。中耳内は元通りの空間が取り戻せ、洗浄などを繰り返し実施したことで、内側の汚い物質はほぼ完璧に近く取り去ることが出来た。(術後の写真②)しかし、取り出した肉片(写真③)の病理組織検査の結果は耳垢腺癌であった。この腫瘍は犬では珍しく通常は耳垢線種という良性のものが多い。ただこの子の耳垢腺癌は高分化の傾向があるので、ある程度経過が良いかもしれないが、再発に充分注意が必要だ。

写真①

 

 

 

写真②

 

 

 

写真③