脾臓の血管肉腫から腹腔内に大量出血をしていた犬

 

       

 

中年の大型犬が急に元気がなくなったということで来院。血液検査で貧血があり、腹腔内に液体貯留、レントゲンとエコー検査で脾臓の腫瘤の存在を確認。腹腔内の出血を穿刺にて確認したため、すぐに手術の準備をし、脾臓全摘出手術を実施。左写真は開腹してすぐに腹腔内に出血していた血液を回収しているところ、右の写真は脾臓と脾頭部にできた腫瘤(ここから出血していた)を創外に露出させているところ。

 
     

 

左写真は腹腔内より回収した血液で2リットル以上あったが、自家血輸血として血管内に戻してあげた。右写真は摘出した脾臓とその腫瘤および血餅。その後の病理組織検査の結果は脾臓の血管肉腫で大網にもすでに転移があった。また肝臓にも肉眼的に小腫瘤が散在(転移)していることが分かっている。術後の回復は順調で、現在は全く元通りの元気な状態になっている。

飼い主の方は化学療法や免疫療法、インターフェロン療法、βーグルカン、サプリメント、その他の自然療法などを希望されていますので、これらを駆使して治療を進めていく予定だ。

 

ヨークシャーテリアの後肢(脛骨腓骨)の複雑骨折の修復

     
 

 

 

リウマチ性関節炎でステロイドで長期治療していたヨークシャーテリアが40~50cmの高さからコンクリートの床に落ちて後肢の脛骨の複雑骨折をしてしまいました。特殊なプレートとロッキングネイルを使用した骨折の修復術で何とか正常に近い位置に修復できました。ただしステロイドを長期投与していた為、治癒がかなり遅延することと、骨折片が小さすぎてすべて骨ネジで止めることは不可能だったことから、骨の癒合がかなり遅延することが想定される為、術後の安静や突発的な強い衝撃を与えないよう充分な注意が必要です。

 

 

急性リンパ球性白血病の犬

      

 

7歳のスタンダードプードルが突然の右側鼻孔からの鼻出血で来院。血液検査では血小板6000(正常300000)、総白血球数231880(正常12000)、内リンパ球(左及び中央写真・ほとんどがペルオキシダーゼ染色及びエステラーゼ染色が陰性のリンパ芽球 )223300(正常3000)、クロナリティー検査はTリンパ球 のモノクロナールな増殖、骨髄検査(右写真)では骨髄内全体にリンパ芽球が占めている。

治療は播種性血管内凝固症候群か免疫介在性血小板減少症の可能性があったので、低分子へパリンとステロイドホルモンの治療に入った。翌日ビンクリスチンという抗癌剤の治療を開始、体表に紫斑、メレナの排便、吐血等の症状が出現したため輸血を実施。ビンクリスチン投与2日後には白血球数が減少し、8日目には正常値となり、出血傾向はなくなったが、貧血が進行してきたため、再度輸血。その後もCOPで治療を継続していったが、一般状態は改善し、貧血も改善して行った。1ヶ月後に両眼球内の前房に腫瘤を確認、ステロイドの減量をしていたが、再度増量し投与して頂いたところ、次第に前房内の腫瘤も急激に縮小して行った。現在初診から2ヶ月になるが、食欲はほぼいつもと変わらなくなってきているし、体重が減少してきているものの、元気はあって飼い主の方も満足していただいている。しかも血液検査の結果はステロイドの影響で肝酵素がやや高いくらいで、総白血球数やリンパ球の異常はほとんど無くなっている。

犬のリンパ球性白血病はそれ自体発生頻度はごく少ないものですが、当院では今回の症例を含めてこの2ヶ月間で4症例を経験している。しかもそれぞれの病期が異なっており、リンパ腫から慢性リンパ球性白血病に移行したものや慢性リンパ球性白血病が急性リンパ球性白血病に移行する時期だったり、白血病が原因した自己免疫性溶血性貧血やDIC(播種性血管内凝固症候群)を伴ったものなど、様々な状態のリンパ球性白血病でした。そしてまだどの子も治療により普段と同じような生活ができている。

 

 
   

脾臓のマス(塊)病変のあった犬2例

 

1例目は8歳のゴールデンレトリーバーで原因不明の体重減少があったため、健康診断を兼ねて検査をしたところ、血液検査で肝酵素の上昇があり、X線検査をしたところ、中腹部にマスがあり、エコー検査の結果、それが脾臓の腫瘤であることが分かった。後日手術により脾臓摘出、病理組織検査の結果は脾臓の結節性過形成(非腫瘍性病変)。

 

 

2例目は13歳のウエルシュコーギーで朝から急に元気食欲がなくなり、夕方から横になって動かないという主訴で来院した。検査結果は貧血、白血球上昇、X線検査とエコー検査で腹部マス(脾臓)2ヶ所が認められ、腹腔内に出血があることが確認された。

 

 

すぐに緊急手術を実施、腫瘤のある脾臓の全摘出と腹腔内に出血していた血液を800cc程回収し、自己血輸血を行なった。術後は回復も早く2日後に退院し、現在も元気にしている。

 

 

病理組織検査の結果、肝臓のマスは肝細胞のグリコーゲン貯留と脂肪蓄積、脾臓のマスは過形成でした。

2例とも脾臓の結節性過形成という非腫瘍性病変でしたが、1例目は無症状、2例目は脾臓の過形成からの腹腔内の出血で貧血になり、動けない状態で来院している。ですから脾臓の腫瘤が見つかったら、できるだけ早い時期に手術による摘出を実施することをお奨めいたします。

 

 

ヨークシャーテリアの橈骨尺骨遠位端骨折

10歳のヨーキーの前足の、人で言えば手首の関節にごく近い部分の骨折でした。関節と骨折端との距離が2~3mm.しかありませんでしたので、金属のプレート(T字型)と螺子を使うことが出来ませんので、髄内ピンを使用して固定し、ギブスでさらに外固定をすることにした。左が骨折した状態。右は修復手術を終えた状態の写真。術後の管理が動物には大切で、少々足を使わせることは必要ですが、瞬発的に強い力が加わることは避けなければなりません。

 

 

 
   

犬の口内の歯肉に多発した線維腫性歯肉腫

10歳の犬の歯肉に複数の腫瘤が見つかり、別の手術で麻酔をかけるので、ついでに切除して、それをバイオプシー(生検) することになった。病理組織検査の結果は線維腫性歯肉腫(周辺性歯原性線維腫とも言う)で良性腫瘍ですが、取り残しがあると再発する可能性がありますので、切除後も時々観察する必要があります。

 

 

 

左の写真は一番大きな歯肉の腫瘤で中央の写真が、その切除後。右の写真は歯肉のできていた9ヶ所の腫瘤を切除したもの。

 

 

 

 
   

シュナウザーの消化器型リンパ腫

    

9歳のシュナウザーが慢性の血便で来院しました。血液検査、レントゲン検査、便検査、膵炎の検査、超音波検査等を実施した結果、犬特異的リパーゼ活性の数値が200以下が正常のところ1000以上、レントゲンの異常なガスパターン、超音波検査で、小腸の腸管壁の異常な肥厚が確認されました。

その結果飼い主の方と相談の結果、病変部の摘出手術及び病理組織検査をする事になった。上の写真が大きく腫大した小腸(空腸)に認められた腫瘤と小さめな腫瘤。

 

 
    

肉眼的に確認できた2ヶ所の腫瘤を含めた腸管切除を実施。左は術後、右は切除した腫瘤部(2ヶ所)の縦断面の写真。病理組織検査の結果は消化器型のリンパ腫で、低~中分化型リンパ腫ということですが、クロナリティー検査(T細胞型リンパ球かB細胞型リンパ球かの検査)の結果も参考に今後は膵炎の治療をしながら、化学療法を実施していくことになりますが、膵炎があるために使用できる化学療法剤が限られてしまうでしょう。

 

 

ブルドッグの軟口蓋過長症の治療

   

 

短頭種といわれる犬種(ブルドッグ・フレンチブルドッグ・シーズー・ペキニーズ・パグ・狆・ボストンテリア・キャバリアキングチヤールススパニエル・ボクサー・ブリュッセルグリフォンなど)は軟口蓋(人で俗に言うノドチンコ)が先天的に長すぎるため、気道の入り口が閉塞して気管に巻き込まれる時の音が、これらの犬種に特徴的なガーガーといった、いびき音となって聞こえる。これらの犬種は夏場に最も熱中症になり易く、麻酔時や麻酔覚醒時に事故が多い犬種でもあります。対処法は長すぎる軟口蓋を短くしてあげることしかありません。若いうちに避妊手術や去勢手術をする際、一緒に手術してあげるのが良いでしょう。短頭種犬は軟口蓋過長症と同時に鼻腔狭窄や気管低形成なども合併していることが多いので、鼻腔狭窄については鼻の穴の入口を広げてあげる整形手術になりますが、これを軟口蓋過長症と同時にやってあげることができます。

左の写真は長すぎる軟口蓋を切りながら、縫合を進めているところ。中央は手術を終えた直後。右の写真は切り取った軟口蓋。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
   

針状の異物が2本胃壁に刺さっていたフレンチブルドッグ

 

   

 

4歳のフレンチブルドッグが2日前から嘔吐、今日になって頻回の嘔吐になったという主訴で来院しました。レントゲン検査(上の写真)で胃内に2本の針状の異物が存在することが分かり、1本は幽門の壁から外に突き出ているのが分かる。すぐに輸液と抗生物質の治療をはじめ、内視鏡(胃カメラ)により摘出する事になった。

 
   

 

左と中央の写真がそれぞれ胃に刺さっていた針状の異物。右の写真が内視鏡用の特殊な異物鉗子で 針の先端を掴んで摘出しているところ。

 

上の写真は胃内にあった異物で、上の2つがプラスチックの破片、下の2つが胃壁に刺さっていた金属の針状の異物(完全に錆付いている)

 

 

 

 

 

 

十二指腸の異物による腸閉塞(フレンチブル)

   

 

6歳のフレンチブルドックが4日前から食欲廃絶、嘔吐があるということで来院、レントゲン写真で小腸に異物が見られた。つぶれたボールのように見える(左の写真)。中央の写真は開腹した際の十二指腸、異物で膨れ上がっているが、一部腸管の色が非常に悪く、長時間の異物の停滞による血行障害で壊死をする寸前の状態。右の写真は取り出したプラスチック製のボール。

 
   

 

左の写真は膵臓がごく近くに存在する場所での非常に難しい手術を終えたところ。右の写真は切除した十二指腸(黒っぽく変色している)。その後は順調で本日3日目ですが、消化の良い食事を完食しています。フレンチブルも色々な異物を飲み込んでしまうことが多い犬種です。①普段から飲み込む可能性のあるものを与えない。②危険そうなものには充分注意してワンちゃんが届くところには置かない。