失神する犬「重度の肺高血圧症」

『2週間前から失神することがある』との主訴で来院した12歳のミニチュア・ダックスフンド。
身体検査では心臓から小さな雑音が聴取され、その他大きな異常は無かった。血液検査も概ね基準範囲内の値であった。
胸部レントゲン検査、心電図検査からは心臓の右側の問題が考えられたために超音波検査を行った。超音波検査では、右房/右室の拡大および右室肥大と三尖弁逆流が認められ、収縮期/拡張期ともに心室中隔の扁平化が認められた。さらに、肺動脈弁逆流も認められた。
各種検査結果から『重度の肺高血圧症』と診断した。

治療を開始して1週間後には失神やふらつきは減少した。

肺高血圧症というのは、全身の血圧は正常でも肺動脈の血圧が高くなっている状態です。
そのため、肺のガス交換(酸素化)の効率が悪くなり低酸素のため失神を起こします。さらに、腹水や浮腫みもみられます。
肺高血圧症になった原因を突き止めるのは非常に難しいとされています。

 

猫の耳道内炎症性ポリープ

13歳の猫が『耳がクサイ』との主訴で来院された。
耳を観察しようとすると、膿性の耳だれがあり耳道内の観察が出来なかったため耳だれを拭い、その後、耳道内洗浄を行った。
耳だれを拭ったものを検査すると大量の細菌および少数のマラセチアが確認された。
洗浄後の耳道内をビデオ・オトスコープで観察すると下の写真のような腫瘤が耳道を塞いでおり、鼓膜までは観察できなかった。
細菌感染による『炎症性ポリープ』を疑い、オーナー様と相談の結果、全身的な抗生物質治療と点耳薬(抗生物質、抗真菌剤、ステロイド剤の合剤)による局所治療で経過観察を行うこととし、縮小がみられなかった場合は手術による摘出を検討することになった。

2週間後には明らかな縮小傾向がみられ、さらにその1週間後には腫瘤は消失していた。

犬の膀胱癌(移行上皮癌)

13才のヨークシャーテリアの歯科治療(歯周病治療及び動揺歯の抜糸とスケーリング)の麻酔前に行なう術前検査をした際に、エコー検査で見つかった膀胱壁の腫瘤が、尿検査による細胞診で移行上皮癌の疑いがあった為、切除生検も含めた腫瘤切除を行った。小型犬の膀胱に直径1.5cm近い腫瘍となると、周辺マージンも含めて3cmは切除することになるので、膀胱全体の1/3を切除することになる。以前には膀胱の1/2の切除を行なったこともあるが、最終的にほぼ元のサイズに戻る。病理組織検査の結果は膀胱の移行上皮癌だった。その後順調に経過し、抜糸も終了した。

高齢のダックスフンドの鼓室胞切開術「真珠腫性中耳炎」

13才のMダックスフンドが3月に他院で慢性外耳炎と中耳炎で全耳道切除術を受けていた。4月末位から首を振った時のふらつきや飲水後に急に転倒したりということが多くなってきたということで、来院された。来院時には左側の斜頸や首の不規則ではあるが前後に動かす運動があり、元気もなかった。CBC(完全血球検査)も血液化学検査にも何も異常はなく、神経疾患の鑑別診断の為、MRI検査センターで画像診断および脳脊髄液検査を行ったところ、脳脊髄液には特に異常はなく、MRIでは左側鼓室胞内にたくさんの蓄積物らしいものが存在。当院にて鼓室胞切開術により、鼓室胞内の集積した角化細胞様の物質をきれいに取り去り、内部の洗浄も充分行って、通常の皮膚縫合で終了した。取り出した物質の病理検査では層状角化物質が存在し、真珠腫の疑いがあるとの診断。細菌培養結果では感染原因はActinomyces  spだった。感受性テストの結果により抗生物質を選択、投与し、VB1・6・12を続けた結果、10日後の抜糸する頃にはふらつきや斜頸が改善し、その後は元気が良くなり以前よりも活発になってきたとのことだった。

猫の肝リピドーシス(脂肪肝)に大切な(胃瘻チューブによる)食事管理

9才の猫が以前から重度の便秘で治療していて、最近になり食欲が低下していたが、食欲が無くなって6日間程たって来院し検査をしたところ、肝臓の酵素(ALT・AST)が上昇し、胆道系の障害もあり(ALP)も上昇、さらに黄疸(総ビリルビン上昇)が出現していた。肝臓が以前からみると腫大していたので、針生検(FNA)により細胞診をしたところ、脂肪肝になっていた。猫ちゃんの状況(重度慢性便秘や合併症)や性格などを考え、胃チュ―ブの設置をご提案したところ、同意が得られたので、胃造瘻チュ―ブを麻酔下で設置。その後チューブフィーディングにより少量づつ頻回投与から徐々に容量を増やし、体重管理をしながら、飼い主様に通院していただき、十分家庭でできるようになってから、自宅でチューブ周辺の衛生管理も含めて実施していただいた。胃チューブ設置後約2週間で黄疸は無くなり、肝酵素も正常になっていった。最終的に1か月半ほどで、やっと胃チューブからでなく、自力で食べるようになったため、2か月後にチューブを抜去することができた。平均的には長くとも1ヶ月前後で抜去することが多いが、今回の場合は重度の便秘と肝障害が強かったこと、さらに口唇部粘膜に化膿性肉芽腫の存在や重度歯周病による動揺歯が2本あったことなどが重なり、自分から採食し難かったと思われる。現在は歯科治療と化膿性肉芽腫切除も終え、元気になり通常通りの食事ができている。猫の肝リピドーシス(脂肪肝)にはこの胃チューブによる食事管理が欠かせない治療方法になっている。

胃チューブ装着の様子

胃チューブのX線による確認

内視鏡で胃内から見たチューブ先端の形状

犬の(免疫介在性)多発性関節炎

呼吸困難、発熱などを主訴にラブラドール・レトリバーが来院しました。
数件の病院で様々な検査をしていただいたそうですが、原因が分からず行った治療にも反応がなかったとのことでした。

当院に来院した際には体温が39.7度と発熱があり、そのために呼吸が荒い状態でした。
身体検査をすると、左右の手根関節の軽度の腫脹があり屈曲時に疼痛がありました。
歩行時にはぎこちない前肢を突っ張ったような歩き方でした。

血液検査では白血球数の増加があり、好中球増多症、単球増多症でした。
血液化学検査では異常所見は無く、炎症のマーカーであるCRPは高値となっていました。
胸部・腹部レントゲン検査、心電図検査、超音波検査などでは異常所見はありませんでした。

手根関節を含めた複数関節の関節液を採取して細胞検査すると、本来粘稠性があるはずの関節液の粘稠性が無く、好中球が多数観察されました(正常であれば好中球はいません)。
抗核抗体、リウマチ因子の検査では問題ありませんでした。

各種検査の結果より(免疫介在性)多発性関節炎と診断しました。
免疫介在性関節炎は自己免疫が関節を構成する組織を標的にして炎症を引き起こす非感染性関節炎です。
治療としては、非ステロイド剤、ステロイド剤、抗リウマチ薬、免疫抑制剤などの内科的治療を行います。

今回のラブラドール・レトリバーでもステロイド治療を行い、治療直後より熱も下がり元気・食欲とも回復し、関節の痛みも消失しました。
今後は症状をみながら徐々に薬を減量する予定でいます。

犬の子宮体部の平滑筋腫

老齢の小型犬が1~2ヶ月ほど前から徐々に便が扁平になってきたが、最近排便に時間がかかるようになってきたという主訴で来院。腹部触診で下腹部に硬い腫瘤を蝕知したため、X線検査及び超音波検査を行った結果、骨盤腔から頭側に向かって幅3cm以上×長さ6cm近くの腫瘤が存在し、これが結腸を圧迫していたことが分かった。周辺のリンパ節の腫大や各臓器の異常はなく、血液検査でも特に異常が見られなかったため、腫瘤の摘出手術を実施した。写真は術前に行ったX線写真と術中の経時的に見ていった子宮の腫瘤摘出手術の様子。子宮の漿膜下で剥離して血管や神経に障害を与えないように、くり抜いていく感覚で切除していった。病理組織検査結果は子宮の平滑筋腫だった。

 

猫の肋骨から発生した骨軟骨腫

10歳の雑種猫が健康診断で左側胸腔内1/3を占める腫瘤を発見、ほとんど症状はなかったが、飼い主の方とのご相談の結果、これ以上進行すればいずれにしても呼吸器系の症状や食道や胃などの消化器症状も出現する可能性があること、また万一悪性の腫瘍であれば周辺の骨組織にかなり進行性に増殖していく可能性もあることから、腫瘤の切除手術を希望された。手術は腫瘤内に含まれる肋骨3本を含んだ切除手術になり、横隔膜にも癒着があったため横隔膜もかなりの長さ切除になった。そのため胸腔壁がかなりの欠損になるため、メッシュを用いてその部分を補うことにした。写真はX線の画像とCT画像および術中の様子を示す。病理組織検査の結果は骨軟骨腫という基本的には良性腫瘍だが、悪性化することもある。またこれが多発する場合には骨軟骨腫症と呼ばれる進行性疾患になるので、再発に注意し、新病変形成に関する経過観察が必要です。

 

 

犬の前十字靭帯断裂(TPLOによる修復手術)

 

『前十字靭帯』は膝関節の中にある靭帯のひとつで、膝関節の過度な伸展を防止し、脛骨の前方への動揺と過度な内旋を制御している。

そのため、膝に過剰な力がかかったときに断裂してしまうことがある。

 

犬では、運動時に断裂がおこることはまれで、そのほとんどは加齢性および変性性変化があらかじめ靭帯に生じており、そこに負荷がかかる(散歩や階段の昇降といった日常生活での運動でも)と後押しになり、前十字靭帯が損傷・または断裂する。

 

症状は、前十字靭帯が部分断裂または完全断裂なのか、急性または慢性なのか、半月板損傷の有無によりさまざまな跛行(足を引きずる)がみられる。

 

前十字靭帯断裂に対しての治療は、外科手術が第一選択とされる。

当院では、症状が軽度・体重が軽い・外科療法を行ったときに合併症の発生リスクが高いと判断される症例に対しては、運動制限や鎮痛薬・サプリメント投与などによるの保存療法を行っている。

 

外科手術が適応になった症例には『TPLO(脛骨高平部水平化骨切り術)』という下腿骨の脛骨の関節面の角度を変える手術を行っている。

当院の手術室にはCアームという外科用のデジタルX線画像診断装置があり、手術中にリアルタイムで骨やピン・プレートの確認をおこなうことができる。

 

膝関節を露出し、断裂した前十字靭帯の処理と剥離していた半月板軟骨の切除をおこなった。(写真の症例はラブラドール・レトリーバー)

大腿骨と脛骨に固定具を装着し、脛骨近位を切断する半円形の器具を使用しているところ。

CアームX線装置で脛骨の角度を決めて、プレートと螺子できちんと固定されているかの確認をした。

 

術後のX線写真で膝関節が良い角度に修復されているのが分かる。

 

 

当院では、毎週火曜日と日曜日(午前中)に整形外科(長澤先生)の診療を行っています。

詳細はコチラのHPよりご確認ください。

http://www.hah.co.jp/specialist/geka.html

ネコの腟脱

5才のネコ(バーマン)が自宅にて4頭の子猫を出産し、その後さらに力んで膣が脱出してきたとのことで来院された。
来院された際は、7〜8cmの長さで膣が脱出しており粘膜からの出血、血行不良のため黒ずんだ部位も見られた。また、膣が脱出してから来院までは1時間ほど経過しており、かなり腫れている状態であった。
鎮痛剤を投与し、胎児が残っていないかを確認するためにレントゲン撮影を行なった。胎児は確認されなかったため、脱出した膣を暖かい生理食塩水で洗浄し体腔内へと押し戻した。その後、生理食塩水を注入し再脱出を防止する目的で陰部を1糸縫合した。

腟脱は犬で発情期や分娩時にごく稀に発症するとされており、猫での発症も稀だと思われる。出産を予定していないのであれば卵巣・子宮摘出を行うことで腟脱の予防はできる。今回のような出産直後の腟脱や子宮脱は予防策はないが、できる限り早急に来院していただき処置する必要がある。