大型犬の上腕骨遠位の非上皮性悪性腫瘍の治療

8歳の大型犬が外傷による急な右前肢の跛行で来院した。整形外科専門担当獣医師の触診やX線検査等の診断で靱帯損傷の疑いがあったため、非ステロイド性の抗炎症剤の内服をしたが、少し改善したものの跛行は相変わらず存在した。X線検査で当初より上腕骨遠位にわずかな骨融解像があったが、その後の検査でその部分がより明確な骨融解となり、さらに外側だけでなく、内側にも骨融解が見られるようになった。それと同時に跛行の程度もより重度になってきた為、腫瘍科の専門医と相談し、数日後に骨のパンチ生検を実施。細胞診と病理組織検査で上腕骨遠位の骨の非上皮性悪性腫瘍という事が分かった。非上皮性悪性腫瘍の中には骨肉腫も含まれるが、確定診断は得られなかった。そこで飼い主の方と相談し、いずれの骨腫瘍も今後の足の痛みが更に悪化して行くことと、それに対処できる痛み止めには限界があること、また骨の悪性腫瘍の為、内臓への転移の可能性が十分考えられるので、早期の内に断脚手術をすることで、痛みをとってあげることができるのと、手術後の抗がん剤の投与で、他への転移した癌細胞を叩いていくことで寿命が伸ばせる可能性があることなどをお話した結果、断脚手術を実施することになった。

 

 

緊急に行った後肢を用いた猫の腹壁壊死開孔部の閉鎖

3歳の日本猫に原因不明(何か薬品が体にかかっていたようだとのこと)の右側の胸部および腹部から大腿部までの広範囲の皮膚の壊死が起こり、次第に数日で皮膚から筋層にまで壊死が進み、入院4日目には腹壁の一部から腹腔内臓器と脂肪が露出してきた為、白色化して壊死した組織をきれいにデブリードした後、緊急に後肢の大腿骨と脛骨・腓骨の骨幹部を除いたほとんどの組織(皮膚から筋層まで)を用い、欠損している場所すべてを被覆し、縫合することで順調に経過し、2週間ほどで抜糸した。            以下の写真を参考にして下さい。                         経時的に壊死部分が増大していくのが分かると思います。レントゲン写真を見ると移植に利用した後肢の位置関係が分かります。

 

 

 

犬の皮下膿瘍後の大きな壊死哆開部のwet-to-dry法による治療

飼い主の方は頬が腫れてきたので、虫にでも刺されたのではないかとおっしゃっていたが、恐らく他の犬に襲われたことがあり、その時瞬間的に噛まれていたのを気が付かずにいて、そこに咬傷による化膿(膿瘍)を形成していたと考えられる。毛を刈って確認してみると皮膚表面は壊死をしており、内側には液体がたまっていた。内用液を採取して検査してみるとまさに血膿(赤血球、細菌と好中球、変性好中球、マクロファージ、細菌の貪食像)であった。その後切開排膿、生食水で十分な洗浄後、壊死部のデブリードメンを行ない、ガーゼ交換はwet-to-Dry法による2~3回

/日、その後肉芽組織が十分上がってから、傷の縮小、そして1か月以上かかったが完治となった。

フラットコーテッドレトリーバーの組織球肉腫

12歳の雌のフラットコーテッドレトリーバーが左後肢の跛行で来院。左後肢の膝関節の腫脹があり、X線検査で関節周囲が腫脹しており、大腿骨遠位の僅かな骨融解と骨膜反応があった。また関節液も貯留していたため、関節液を採取して検査したところ、好中球は多かったが細菌の貪食像はなかった。腫脹している関節周囲の組織に針生検をして細胞診をしたところ、かなり悪性度の高い大型の非上皮性腫瘍細胞が多数みられた。そこで後日全身麻酔下で組織を一部採取し、病理組織検査を実施。その結果この犬種に特に多い組織球肉腫であることが判明した。飼い主の方とご相談の上、現在と将来増加する痛みをとってあげるというQOL向上の目的といくらかでも周囲の転移を防ぐ目的で、左後肢の断脚手術を選択された。この子は元々犬には珍しい皮膚の好酸球性肉芽腫が数年前から耳介や顔面、足先などに発生し、その度ステロイド剤により治療して改善していた。そして現在も隔日で投与していたが、手術してから抜糸するまではこのステロイドを中止することになる。また術創の治癒の遅延が考えられるため、2週間以降の抜糸となる。

猫の尿管結石に対するSUBシステム手術

5歳令、去勢済みの男の子です。他院にて尿管結石の手術治療を4ヶ月前に実施したものの、手術の際に設置したチューブ(尿管ステント)の閉塞を繰り返していたため、再手術を目的に、当院に紹介来院されました。術前検査において、右側の腎臓の機能が乏しいことが超音波検査から分かり(写真1)、すでに二回手術を行っている左側の腎臓にも、腎臓の内腔(腎盂)の拡張所見がみられました(写真2)。そこで、このままでは尿を排泄することができず、腎臓の機能不全に陥る事が予想されたため、腎臓と膀胱の間を特殊なチューブでつなぐバイパス手術(SUBシステム手術)を行うことになりました。この手術方法はアメリカで開発された比較的新しい手術方法ですが、猫や犬の尿管閉塞の治療において、尿管ステント手術と比べ閉塞する事が少なく、優れた治療方法です。当院では主に、猫や犬の尿管結石の治療に、この手術方法を選択しています。

(写真1と2)

以下が術後の写真になります。バイパス手術(SUBシステム手術)

若いチワワの食道内異物(白菜の芯)

若いチワワが白菜の芯ごと吞み込んでしまい、苦しそうになったので夜間救急来院した。来院時は元気なく呑み込もうとする動作を繰り返していた。X線検査をしたところ心基底部の尾方の食道に直線の面とその後方の白い食道拡張部を確認。催吐処置をしても嘔吐できなかったため、すぐに全身麻酔下で内視鏡検査及び処置をすることになった。結局シリコンチューブの中に内視鏡を入れて観察しながら、そのシリコンチューブにより、胃内に押し入れた。写真はX線写真での食道内異物(白菜)の位置の確認と、内視鏡での食道内の白菜の確認及びシリコンチューブを利用した胃内へ押し入れている処置中の写真と胃内に入った白菜の芯の部分。

 

 

トイプードルの頸椎骨折

生後4か月半のトイプードルが飼い主に飛びついて着地に失敗してしまい、それからかなり痛がってキャンキャン泣いているという事で来院。レントゲンで第2頸椎の骨折が認められた。骨折の状況によっては手術も検討しなければならないため、CTとMRI検査をしていただいたところ、脊髄神経に対する影響がほとんどなかったことと、頚椎の離断部のズレなども最小限で、年齢も若いので、保定器具の装着による外固定で治療することになった。経過は良好で1週間ほどでほとんど痛がらなくなっており、しだいに動きが活発になってきているため、安静に保つことが難しくなってきそうだ。下の写真はX線写真とCT画像、そしてコルセットを装着している状況。

 

 

犬の後肢膝関節尾側の皮膚肥満細胞腫の切除

中年のミニピンの後肢膝関節尾側の皮膚肥満細胞腫を切除することになった。ただし腫瘍周囲の切除マージンを2㎝とすると、後肢の膝関節付近の皮膚に余裕がないため、そのままでは縫合できない。従ってあらかじめ皮膚フラップ(皮膚弁)による置換術を想定した切除線を描き、それに沿った手術を実施した。写真は術前と腫瘍切除時、リンパ節郭清した時のリンパ節、術後の状況、そして抜糸後の写真。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雑種犬の手根関節の関節炎による変形・亜脱臼の整復手術

雑種の老犬が最近次第に痛そうになり、跛行を呈するようになってきたという事で来院した。レントゲンで手根関節が靱帯の損傷を伴って、慢性の関節炎と脱臼を伴い、異常な関節の腫大と変位が見られた。このような重度の靱帯損傷による関節炎を伴う脱臼は関節固定術が適応となる。今回DCPと螺子による関節固定と関節内の海綿骨移植により手根関節の固定手術を実施した。写真はX線写真の術前術後と手術経過を順に示す。

 

 

若齢の雑種犬の腸重積

2歳の雑種犬が慢性の下痢の後、食欲廃絶、嘔吐があったため、検査をしたところ、エコー検査で典型的な小腸の重積を示唆する画像が認められた。手術により修復して元の状態に戻したところ、あまり時間が経っていなかったので腸管の色も悪くなく、血行障害は軽度だったため、すぐに閉腹して終了した。静脈点滴と食事療法を5日程続けることで食欲ももどり、症状も安定したため退院していただいた。腸重積の特徴的なエコー画像と術中の写真を下に示す。