チェリーアイ(第三眼瞼腺逸脱)の治療

 瞬膜の内側にある線組織の炎症が原因で大きくなると、さくらんぼの様に赤く外側に飛び出してくるものをチェリーアイと呼びます。チェリーアイになった犬は、目を気にして前足でこすったり、まぶしそうに目を細めたり、まばたきの回数が増えたりといったしぐさが見られるようになります。そのほか、流涙(涙を流すこと)や目の充血が認められます。チェリーアイは片方の目だけに起こることもありますが、両方の目に起こることもあります。
通常、生後6ヵ月齢から2歳齢くらいの若い犬に多く認められます。このフレンチブルは2歳です。治療は腫れた部分を瞬膜の内側の深い部分に戻してやる手術になります。これを取り去ったりすると涙の分泌腺でもありますので、ドライアイの原因になってしまいますので、絶対に致しません。下の上段の写真は術前の腫大した瞬膜腺を示し、下段は術後の状態。   

 

 
  

 

 

エゾジカの骨の胃内異物

6歳のワンちゃんが嘔吐、食欲なしの主訴で来院、幕張メッセのペット博のブースで買ってきたエゾジカの軟骨として売られていたものを購入し、それを与えたという。X線検査にて胃内に骨の一部と思われるものが存在していた(下の写真) かなり先端が鋭角になっている部分があり、内視鏡では摘出する時に食道を傷つけてしまう可能性が高いので、胃切開による摘出手術となった。飼い主の方は店員が軟骨だから安全と言っていたのに、こんな事になるとはと嘆いていましたが、実際に骨類や動物の皮で出来たコブのついたものは大変危険なことが多く、大きいまま飲み込んで腸閉塞を起こしたり、胃腸に傷をつけたり、穿孔して腹膜炎を起こすこともありますので、その動物の食欲が特別大盛なら骨や皮のコブ付きガムは与えないようにするか、与える物が危険でないことを十分確認してから与えるようにしましょう。

 

 
 

  

 

交通事故で分かった大きな2つの腫瘍

高齢犬が交通事故に遭って骨盤の複雑骨折を起こしてしまった。全身の身体検査検査と完全血球検査、血液生化学検査、尿検査、さらにレントゲン検査、エコー検査をした結果、慢性僧帽弁閉鎖不全と車の衝突によると思われる肝障害、筋肉の損傷、血尿、骨盤の5ヵ所以上の複雑骨折が分かったが、更に肺の後葉の大きな腫瘍を疑う腫瘤と左腎の腫瘍化が見られた。15歳にもなる高齢犬なので 飼い主の方は骨折や腫瘍の手術を望まず、外傷による障害の内科療法を希望された。完全な疼痛管理と輸液療法を主体にした治療により、元気食欲が戻り、起立はできませんが、前足で移動することも出来るようになったので、1週間程で退院となった。今回の交通事故はこの子にとって不幸な出来事でしたが、事故に遭わなければ、これらの腫瘍の発見がなかったということですから、これからの余生をどのように有効に暮らしていくかを前向きに考えてあげてほしいと思います。  
  

 

上の左の写真は骨盤の複雑骨折、右は肺の後葉に出来た腫瘤

 

 

 上の左のレントゲン写真は大きく歪な左腎を示している。右は左腎のエコー検査の写真で本来の腎臓の形体と構造が失われている。

 

 

犬の重度な会陰ヘルニアの整復手術

他院にかかっていた方がお知り合いの紹介で当院に受診してきた。7歳の犬で排尿や排便に異常があり、腫れているお尻の方を触れるだけでも痛がって怒るという主訴である。肛門の左右に大きな膨らみがあり、右は直腸憩室という広がった腸になって、そこに糞塊が溜まった状態、左は膀胱が会陰部から外に逸脱しており、排尿もうまくいかない状態でした。排尿障害は一ヶ月も前から症状があったという。またかなり前から排便が苦しそうで、飼い主が手で溜まった糞塊を圧迫して出していた。他院の獣医師は手術をしてもすぐ再発してしまうから、やらない方が良いという説明だったという。確かに再発する可能性はないとはいえないが、ここまで重度になることが予想されるような会陰部の広い開口部があり、排尿排便に苦しんでいる場合は手術以外に選択肢はないだろう。またこのように重度の場合は結腸固定術と精管および前立腺の固定術も併用し、さらに会陰部のヘルニア輪があまりにも広いので、当然内閉鎖筋の転位術も併用する必要がある。  
     

 

左の黒いガス像が直腸憩室、右の造影剤で白く丸く見える部分が膀胱

 

 

白く丸く見えるのが逸脱した膀胱

 

 

術前の肛門と会陰部の状態

 

 

結腸の腹壁固定、精管と前立腺の腹壁固定を示す

 

 

 

術後の様子

 

 

高齢犬の前立腺炎

10歳の高齢犬が高熱と元気食欲がないということで来院。血液検査では白血球の激しい上昇、炎症マーカーであるCRPが二桁の上昇、肝酵素の上昇などがあった。尿検査では潜血反応があり、変性した好中球が一面に存在し、細菌尿になっていた。レントゲン(上段の写真)では腹腔内のスリガラス状の陰影があり、腹膜炎を疑わせた。エコー検査(中段の写真)で確認したところ前立腺肥大と嚢胞状の液体貯留が多く認められた。静脈点滴による輸液と抗生剤を主体とした治療後、手術を実施。腹腔内は血様の膿が溜まっており、サクションで吸引後前立腺の嚢胞部分(下段の写真)から液体を吸引し、腫大していた前立腺は内部が化膿していたため、内側の化膿壊死部をくりぬいて切除した。腹腔内は3リットル以上の生理食塩液で洗浄した後、閉腹し、最後に去勢手術を実施した。切除した前立腺組織の病理組織検査の結果は前立腺の化膿性炎症と前立腺嚢胞だった。前立腺の肥大は去勢手術によって、予防あるいは治療ができます。若いうちに去勢手術をすることで、前立腺肥大が予防できると同時に以下のような行動学的異常を回避できます。 

 

  

雄犬(テストステロンの影響)
  徘徊(他人への迷惑,交通事故)
  他の犬への攻撃性(発情中雌犬がいる場合)
  性的不満足(人,どうぶつへのマウンティング)
  恋煩い(食欲不振,体重減少,落ち着きのなさ)

 雄猫(テストステロンの影響)
  遠方まで行って帰らない
  他の雄猫との喧嘩
  鳴き声
  スプレー

 
 

 

 

  

 

 

 

 

胃瘻チューブの設置

口腔内に問題があって口から食事が食べられない場合や巨大食道症などの食道に異常があって胃内に食物が降りて行かない、または猫さんで脂肪肝で食欲がでないなどの慢性疾患の場合にもこの方法を用います。通常、全身麻酔下で内視鏡を用いて実施されますが、今回は胃の位置が前方に位置し、テンションがかりそうでしたので、側腹の一部切開で胃を一部露出させてマッシュルームカテーテルを留置し、巾着縫合及び胃と腹壁の縫合をして固定した。上の写真は胃内にチューブが入れてあり、巾着縫合が終わったところ。下の写真はチューブが皮膚に固定され装着が終わったところ。   
     

 

  

 

このチューブが入っていると、飼い主の方が自宅で、流動食(栄養食)を胃に直接入れてあげることができ、かなり長期間使うこともできます。

 

中年齢の猫さんの中趾骨の完全骨折の修復術

中年の猫さんが何処かに足を挟んで4本の中趾骨全てを骨折した。1段目の2枚の写真が術前のレントゲン。その下の段2枚は術中と術後の写真(プレートと螺子およびIMピンを3本使用)。3段目と4段目の写真は術後のレントゲン写真。第3中趾骨は骨片が存在し、複雑骨折になっていたが、元の位置に戻し、修復が完了した。   
   

 

 

 

 

12歳のワンちゃんの眼瞼(眼の縁)の腫瘤

   
高齢の心疾患(弁膜症)を持っているダックスフンドの眼瞼に出来た腫瘤が原因で、涙と目やにが酷くなってきたということで来院したが、麻酔が不可能なので軽い鎮静剤だけで可能なクリオペンによる凍結手術(クライオサ-ジェリー)を実施した。上の写真は左から術前・術中・術後2週間後(術前と比べ症状が格段に良くなっているのがお分かりでしょうか)この手術の実施にあたって、眼瞼の腫瘤には悪性の腫瘍もあり得るので、細胞診や臨床症状、増大期間等により、良性の腫瘤であることを確認してから実施します。  

膀胱結石の治療を抗生剤と食餌療法で4ヶ月間受けていた犬の本態は?

 

10歳のダックスフンドが他院にて4ヶ月間抗生物質の治療を受けていたが、最近排尿がうまくできず、もらしてしまうことが多くなり、血尿もひどくなり、元気や食欲もなくなってきたということで、来院された。他院では膀胱結石があることはわかっていたが、食事療法と抗生物質で結石が小さくなるのを期待した治療のようだった。精密検査をさせていただき、膀胱内には大きな結石が存在すると同時に、ガスが貯留しており、ガス産生菌の感染が疑われた(一番上の写真)。前立腺内にも小さな結石が存在。また右の腎臓は水腎症と言う状態になっており、腎盂の拡張と尿管の著しい拡張が存在したため(2段目の写真)、膀胱三角といわれる尿管の膀胱に開口する部分を精査したら、丁度尿管の開口部を閉鎖するように不定形の腫瘤(マス)があった(3段目の写真)。血液検査の結果は白血球の増多以外に大きな異常はなく、腎臓も腎不全までには至っていなかったので、全身麻酔下で膀胱結石の摘出(4段目の写真)と膀胱三角のマス(腫瘤)のバイオプシーを実施した。 

 

 

 

 

 
膀胱三角の腫瘤の病理組織検査の結果は 移行上皮癌だった。つまり右側尿管開口部の膀胱粘膜に移行上皮癌があったために、右の腎臓が水腎症となり、膀胱三角全体に癌が増殖していたため、膀胱括約筋の機能もなくなってしまい、結石の存在する膀胱に尿が貯留し、細菌感染が進行していったものと考えられる。結石の分析結果は蓚酸カルシウムだったので、摘出以外に早期解決はあり得なかった。術後は一般状態はかなり良くなったが、飼い主の意向で化学療法は行なわず、感受性テストに基づいた抗生剤と移行上皮癌に効果があるといわれる非ステロイド性抗炎症剤による治療やサプリメントでの治療を実施する事になった。排尿に関してはしばらくは尿道留置カテーテルを設置し、定期的な排尿をすることになった。   

 

10歳のミニチュアダックスの消化器型リンパ腫

10歳のミニチュアダックスが1ヶ月以上にわたる慢性の下痢があり、他院からのご紹介で来院した。腹部触診で3~4cm大の腫瘤が触知され、レントゲン検査ではそれが不明確だったが、エコー検査で腸間膜根あたりのリンパ節が腫大し、小腸の一部に壁のイレギュラーな肥厚による狭窄がみられたため、病変部切除と確定診断のための病理検査を目的に、開腹手術となった。血液検査で貧血と低蛋白(低アルブミン)があったため、念のため輸血を行なってからの手術になった。下の上段2つの写真は腸間膜のリンパ節の腫大と肥厚した腸管の横断面のエコー検査の画像。2段目は腸管の2ヶ所にあった腫瘤と拡張した病変および腸間膜根の腫大したリンパ節 

下の写真は空腸2ヶ所の病変部を切除した術後と切除した腸管。

 

下の写真は2箇所の病変部を切開して内部を見ている。

 

 
病理組織検査の結果は消化器型リンパ腫、ハイグレードタイプで低分化型のリンパ腫、つまり化学療法にどちらかと言うと反応するタイプと言うことになります。抜糸後、プレドニゾロンと3種類の抗癌剤を交互に投与していく、いわゆるUWー25というプロトコールで治療していく。現在化学療法を始めて3週目に入ったが、いたって元気で、食欲も出て、便の状態も良好で、腹腔内のリンパ節も正常の大きさになっている。