尿道結石による尿閉

高齢のビション・フリーゼが踏ん張って便が出ないようだということで来院。血液検査とX腺検査で、尿道に10個以上の結石が詰っており、これが原因で排便ではなく、排尿ができない状態だった。下のX腺写真でペニスのOS.PENISという骨の溝に走行している尿道部分から手前に十数個の結石が詰っているのが分かる。 

 

 

 
 通常の処置としては尿道に詰っている結石をペニスの先端からカテーテルを挿入し、水圧をかけて膀胱に戻し、膀胱切開をして結石を摘出する。しかし尿分析をした結果から、シュウ酸カルシウム結石の可能性が高く、結石の表面がゴツゴツしていた為、どうしても膀胱内に戻すことができなかったため、ペニスの根本の尿道を切開し、そこから結石を摘出し、且つ尿道切開術を施して、そこから排尿をさせるようにした。このことにより、万一膀胱結石が再発した場合、同じ場所に閉塞を起こすことを予防できることになる。術後の状態と取り出した結石が下。

 

 

 

野鳥・ムクドリの保護

ムクドリが落鳥しているのを発見した方が保護して、当院に持ち込まれた。両足が麻痺しており、明らかな神経症状があった。排泄物も黒っぽい色をしており、消化管の出血を示唆していた。当院のエキゾチックを専門に診ている大竹先生は鉛中毒の疑いがあるとのことで、X腺検査をしたら、腸管内に数ヶ所、小金属片が写っていた。鉛のキレート剤であるブライアンと言う薬剤を使用して治療に入ったが、その後も治療の反応なく、2日目に亡くなってしまった。鉛中毒は自然の中では通常起こらない病気です。恐らく人間の捨てたものを口にしてしまったのかもしれません。何とも言えない虚しさを感じました。

 

チェリーアイ(第三眼瞼腺逸脱)の治療

 瞬膜の内側にある線組織の炎症が原因で大きくなると、さくらんぼの様に赤く外側に飛び出してくるものをチェリーアイと呼びます。チェリーアイになった犬は、目を気にして前足でこすったり、まぶしそうに目を細めたり、まばたきの回数が増えたりといったしぐさが見られるようになります。そのほか、流涙(涙を流すこと)や目の充血が認められます。チェリーアイは片方の目だけに起こることもありますが、両方の目に起こることもあります。
通常、生後6ヵ月齢から2歳齢くらいの若い犬に多く認められます。このフレンチブルは2歳です。治療は腫れた部分を瞬膜の内側の深い部分に戻してやる手術になります。これを取り去ったりすると涙の分泌腺でもありますので、ドライアイの原因になってしまいますので、絶対に致しません。下の上段の写真は術前の腫大した瞬膜腺を示し、下段は術後の状態。   

 

 
  

 

 

エゾジカの骨の胃内異物

6歳のワンちゃんが嘔吐、食欲なしの主訴で来院、幕張メッセのペット博のブースで買ってきたエゾジカの軟骨として売られていたものを購入し、それを与えたという。X線検査にて胃内に骨の一部と思われるものが存在していた(下の写真) かなり先端が鋭角になっている部分があり、内視鏡では摘出する時に食道を傷つけてしまう可能性が高いので、胃切開による摘出手術となった。飼い主の方は店員が軟骨だから安全と言っていたのに、こんな事になるとはと嘆いていましたが、実際に骨類や動物の皮で出来たコブのついたものは大変危険なことが多く、大きいまま飲み込んで腸閉塞を起こしたり、胃腸に傷をつけたり、穿孔して腹膜炎を起こすこともありますので、その動物の食欲が特別大盛なら骨や皮のコブ付きガムは与えないようにするか、与える物が危険でないことを十分確認してから与えるようにしましょう。

 

 
 

  

 

交通事故で分かった大きな2つの腫瘍

高齢犬が交通事故に遭って骨盤の複雑骨折を起こしてしまった。全身の身体検査検査と完全血球検査、血液生化学検査、尿検査、さらにレントゲン検査、エコー検査をした結果、慢性僧帽弁閉鎖不全と車の衝突によると思われる肝障害、筋肉の損傷、血尿、骨盤の5ヵ所以上の複雑骨折が分かったが、更に肺の後葉の大きな腫瘍を疑う腫瘤と左腎の腫瘍化が見られた。15歳にもなる高齢犬なので 飼い主の方は骨折や腫瘍の手術を望まず、外傷による障害の内科療法を希望された。完全な疼痛管理と輸液療法を主体にした治療により、元気食欲が戻り、起立はできませんが、前足で移動することも出来るようになったので、1週間程で退院となった。今回の交通事故はこの子にとって不幸な出来事でしたが、事故に遭わなければ、これらの腫瘍の発見がなかったということですから、これからの余生をどのように有効に暮らしていくかを前向きに考えてあげてほしいと思います。 
  

 

上の左の写真は骨盤の複雑骨折、右は肺の後葉に出来た腫瘤

 

 

 上の左のレントゲン写真は大きく歪な左腎を示している。右は左腎のエコー検査の写真で本来の腎臓の形体と構造が失われている。

 

 

犬の重度な会陰ヘルニアの整復手術

他院にかかっていた方がお知り合いの紹介で当院に受診してきた。7歳の犬で排尿や排便に異常があり、腫れているお尻の方を触れるだけでも痛がって怒るという主訴である。肛門の左右に大きな膨らみがあり、右は直腸憩室という広がった腸になって、そこに糞塊が溜まった状態、左は膀胱が会陰部から外に逸脱しており、排尿もうまくいかない状態でした。排尿障害は一ヶ月も前から症状があったという。またかなり前から排便が苦しそうで、飼い主が手で溜まった糞塊を圧迫して出していた。他院の獣医師は手術をしてもすぐ再発してしまうから、やらない方が良いという説明だったという。確かに再発する可能性はないとはいえないが、ここまで重度になることが予想されるような会陰部の広い開口部があり、排尿排便に苦しんでいる場合は手術以外に選択肢はないだろう。またこのように重度の場合は結腸固定術と精管および前立腺の固定術も併用し、さらに会陰部のヘルニア輪があまりにも広いので、当然内閉鎖筋の転位術も併用する必要がある。 
     

 

左の黒いガス像が直腸憩室、右の造影剤で白く丸く見える部分が膀胱

 

 

白く丸く見えるのが逸脱した膀胱

 

 

術前の肛門と会陰部の状態

 

 

結腸の腹壁固定、精管と前立腺の腹壁固定を示す

 

 

 

術後の様子

 

 

高齢犬の前立腺炎

10歳の高齢犬が高熱と元気食欲がないということで来院。血液検査では白血球の激しい上昇、炎症マーカーであるCRPが二桁の上昇、肝酵素の上昇などがあった。尿検査では潜血反応があり、変性した好中球が一面に存在し、細菌尿になっていた。レントゲン(上段の写真)では腹腔内のスリガラス状の陰影があり、腹膜炎を疑わせた。エコー検査(中段の写真)で確認したところ前立腺肥大と嚢胞状の液体貯留が多く認められた。静脈点滴による輸液と抗生剤を主体とした治療後、手術を実施。腹腔内は血様の膿が溜まっており、サクションで吸引後前立腺の嚢胞部分(下段の写真)から液体を吸引し、腫大していた前立腺は内部が化膿していたため、内側の化膿壊死部をくりぬいて切除した。腹腔内は3リットル以上の生理食塩液で洗浄した後、閉腹し、最後に去勢手術を実施した。切除した前立腺組織の病理組織検査の結果は前立腺の化膿性炎症と前立腺嚢胞だった。前立腺の肥大は去勢手術によって、予防あるいは治療ができます。若いうちに去勢手術をすることで、前立腺肥大が予防できると同時に以下のような行動学的異常を回避できます。 

 

  

雄犬(テストステロンの影響)
  徘徊(他人への迷惑,交通事故)
  他の犬への攻撃性(発情中雌犬がいる場合)
  性的不満足(人,どうぶつへのマウンティング)
  恋煩い(食欲不振,体重減少,落ち着きのなさ)

 雄猫(テストステロンの影響)
  遠方まで行って帰らない
  他の雄猫との喧嘩
  鳴き声
  スプレー

 
 

 

 

  

 

 

 

 

胃瘻チューブの設置

口腔内に問題があって口から食事が食べられない場合や巨大食道症などの食道に異常があって胃内に食物が降りて行かない、または猫さんで脂肪肝で食欲がでないなどの慢性疾患の場合にもこの方法を用います。通常、全身麻酔下で内視鏡を用いて実施されますが、今回は胃の位置が前方に位置し、テンションがかりそうでしたので、側腹の一部切開で胃を一部露出させてマッシュルームカテーテルを留置し、巾着縫合及び胃と腹壁の縫合をして固定した。上の写真は胃内にチューブが入れてあり、巾着縫合が終わったところ。下の写真はチューブが皮膚に固定され装着が終わったところ。  
     

 

  

 

このチューブが入っていると、飼い主の方が自宅で、流動食(栄養食)を胃に直接入れてあげることができ、かなり長期間使うこともできます。

 

中年齢の猫さんの中趾骨の完全骨折の修復術

中年の猫さんが何処かに足を挟んで4本の中趾骨全てを骨折した。1段目の2枚の写真が術前のレントゲン。その下の段2枚は術中と術後の写真(プレートと螺子およびIMピンを3本使用)。3段目と4段目の写真は術後のレントゲン写真。第3中趾骨は骨片が存在し、複雑骨折になっていたが、元の位置に戻し、修復が完了した。  
   

 

 

 

 

12歳のワンちゃんの眼瞼(眼の縁)の腫瘤

  
高齢の心疾患(弁膜症)を持っているダックスフンドの眼瞼に出来た腫瘤が原因で、涙と目やにが酷くなってきたということで来院したが、麻酔が不可能なので軽い鎮静剤だけで可能なクリオペンによる凍結手術(クライオサ-ジェリー)を実施した。上の写真は左から術前・術中・術後2週間後(術前と比べ症状が格段に良くなっているのがお分かりでしょうか)この手術の実施にあたって、眼瞼の腫瘤には悪性の腫瘍もあり得るので、細胞診や臨床症状、増大期間等により、良性の腫瘤であることを確認してから実施します。