膀胱結石の治療を抗生剤と食餌療法で4ヶ月間受けていた犬の本態は?

 

10歳のダックスフンドが他院にて4ヶ月間抗生物質の治療を受けていたが、最近排尿がうまくできず、もらしてしまうことが多くなり、血尿もひどくなり、元気や食欲もなくなってきたということで、来院された。他院では膀胱結石があることはわかっていたが、食事療法と抗生物質で結石が小さくなるのを期待した治療のようだった。精密検査をさせていただき、膀胱内には大きな結石が存在すると同時に、ガスが貯留しており、ガス産生菌の感染が疑われた(一番上の写真)。前立腺内にも小さな結石が存在。また右の腎臓は水腎症と言う状態になっており、腎盂の拡張と尿管の著しい拡張が存在したため(2段目の写真)、膀胱三角といわれる尿管の膀胱に開口する部分を精査したら、丁度尿管の開口部を閉鎖するように不定形の腫瘤(マス)があった(3段目の写真)。血液検査の結果は白血球の増多以外に大きな異常はなく、腎臓も腎不全までには至っていなかったので、全身麻酔下で膀胱結石の摘出(4段目の写真)と膀胱三角のマス(腫瘤)のバイオプシーを実施した。 

 

 

 

 

 
膀胱三角の腫瘤の病理組織検査の結果は 移行上皮癌だった。つまり右側尿管開口部の膀胱粘膜に移行上皮癌があったために、右の腎臓が水腎症となり、膀胱三角全体に癌が増殖していたため、膀胱括約筋の機能もなくなってしまい、結石の存在する膀胱に尿が貯留し、細菌感染が進行していったものと考えられる。結石の分析結果は蓚酸カルシウムだったので、摘出以外に早期解決はあり得なかった。術後は一般状態はかなり良くなったが、飼い主の意向で化学療法は行なわず、感受性テストに基づいた抗生剤と移行上皮癌に効果があるといわれる非ステロイド性抗炎症剤による治療やサプリメントでの治療を実施する事になった。排尿に関してはしばらくは尿道留置カテーテルを設置し、定期的な排尿をすることになった。  

 

10歳のミニチュアダックスの消化器型リンパ腫

10歳のミニチュアダックスが1ヶ月以上にわたる慢性の下痢があり、他院からのご紹介で来院した。腹部触診で3~4cm大の腫瘤が触知され、レントゲン検査ではそれが不明確だったが、エコー検査で腸間膜根あたりのリンパ節が腫大し、小腸の一部に壁のイレギュラーな肥厚による狭窄がみられたため、病変部切除と確定診断のための病理検査を目的に、開腹手術となった。血液検査で貧血と低蛋白(低アルブミン)があったため、念のため輸血を行なってからの手術になった。下の上段2つの写真は腸間膜のリンパ節の腫大と肥厚した腸管の横断面のエコー検査の画像。2段目は腸管の2ヶ所にあった腫瘤と拡張した病変および腸間膜根の腫大したリンパ節 

下の写真は空腸2ヶ所の病変部を切除した術後と切除した腸管。

 

下の写真は2箇所の病変部を切開して内部を見ている。

 

 
病理組織検査の結果は消化器型リンパ腫、ハイグレードタイプで低分化型のリンパ腫、つまり化学療法にどちらかと言うと反応するタイプと言うことになります。抜糸後、プレドニゾロンと3種類の抗癌剤を交互に投与していく、いわゆるUWー25というプロトコールで治療していく。現在化学療法を始めて3週目に入ったが、いたって元気で、食欲も出て、便の状態も良好で、腹腔内のリンパ節も正常の大きさになっている。 

犬同士の喧嘩による咬傷を甘く見ないで下さい。

 

ある雑種犬が複数の犬とケンカし、ケガをしました。来院時は陰嚢や後肢の内側と外側の数ヶ所の出血と背中の数ヶ所の出血があり、痛くてあまり動けない状況でした。写真下は数ヶ所の咬傷による犬歯の刺さったような小さ目の傷がある。  

 

ところが皮膚の下ではとんでもない事になっていた。右側下腹部のやや盛り上がったところは、筋肉が完全に裂け、腹筋と腹膜に大きなホールが開いており、その穴から腸管が皮下にまで出てきてしまっていた。その腸管も咬傷の圧迫により、腸そのものとそこに向かっている血管もちぎれており、小腸の一部が壊死していた。それが下の写真の左で、中央は飛び出した腸管を元の腹腔に戻したところ。右の写真が手術して壊死していた腸管を切除したもの。

 

 

 

 
下の写真は左後肢内側の皮下の筋肉および大血管の分枝の断裂が認められた。   

 

腹部の壊死した腸管を切除し、腸管の端々吻合と、腹壁の修復手術をして、2週間後には左足膝の少し上あたりからその下にかけての血行が戻らなく、壊死をしてきたため、断脚手術に踏み切った。術後は5日後に退院し、現在は3本足で元気に生活している。 

 このように皮膚の内側では想像もつかない程のダメージがあることが多いので

傷の大きさに関係なく、犬同士の喧嘩で少しでも歯が入った可能性がある場合

は動物病院に連れて行って、診察を受けてください。

 

 

 

 

11歳のゴールデンレトリーバーの副腎の褐色細胞種

 昨年、精巣の間細胞腫とセミノーマで手術した11歳のゴールデンレトリーバーが健康診断で来院した。血液検査とX線検査では特に異常所見は見当たらなかったが、エコー検査で中腹部やや左側に3~4cmのマスがあり、肝臓内にも長軸で2.7cm程のマスが存在していた。下の写真は左が腹部のマス、右が肝臓内のマス。 

 

下の写真は副腎腫瘍の摘出手術中、右は肝臓表面に認められた小腫瘤。

 

下の写真は摘出した副腎と肝臓の腫瘤、右の写真はその割面を示している。

病理組織検査の結果は副腎は褐色細胞腫、肝臓の腫瘤は特殊染色により、副腎の腫瘍と同じ好銀性顆粒を細胞質に含んでいたため、副腎の褐色細胞腫の肝臓転移という診断になった。このことから昨年摘出した精巣の間細胞腫の転移ではないことが分かった。

 
  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

13歳のマルチ-スの脾臓と右心室壁のマス(腫瘤)

13歳のマルチースが、急な食欲不振、嘔吐、ふらつきの症状で来院した。血液検査およびX線検査、エコー検査を実施し、血液検査とX線検査では大きな異常はなく、エコー検査で脾臓に1cm程の小さなマス、心臓の右心室壁には、2cm程の低エコーのマスが見つかった。今回の症状は心臓のマスが原因の右心不全によって、消化器症状やふらつきなどが発現したものと考えられる。脾臓と右心室にマスが存在していたことと、その内部が低エコーであることから、血管肉腫の可能性が示唆される。但しそれ以外の転移性の腫瘍と言うことも考えられるが、いずれにしても予後はあまり良くはなさそうである。下の写真は心エコー図で上の方に見える円形で内部が黒く低エコーに見える部分が腫瘤

15歳の猫の消化器型リンパ腫が原因の腸重積

 15歳の猫が嘔吐、食欲廃絶で来院。レントゲン検査で胃腸管のニボーラインとエコー検査の腸管の重積している画像(下の二枚の写真)から腸重積と診断、すぐに手術となった。2段目の写真は開腹して腸重積のおきている部分を示している。その下の写真は重積を整復したら、入り込んでいた腸管の一部が硬化した部分(腸管壁の肥厚)とその下の写真はその部分の切開した断面を示し、壁の肥厚と変色している様子。病理組織検査の結果は消化器型リンパ腫で、これが原因でおきた腸重積だった。付属リンパ節の腫大があったため術後の抜糸が終ってから、化学療法を実施している。   

 

 
 

 

 

 

 

フラットコーテッド・レトリーバーの組織球性肉腫

数ヶ月前から前足の軽い跛行が見られたが、最近になって体が揺れるような跛行になってきたという主訴で来院。前肢上腕内側が腫大していたため、針生検にて細胞診をしたところ、悪性の肉腫が疑われる細胞の極端な大小不同や明らかな核の悪性所見がみられた。また体表の数ヶ所に小腫瘤が散見されたため、2ヶ所の腫瘤についても細胞診を行なったところ、これらも同様の所見が得られた。フラットコーテッドと言う犬種からして、組織球性肉腫が疑われたため、前肢内側の10cm程の腫瘤とその近くにあった約1cmの腫瘤と腰部に近いところの皮下の腫瘤を減容積の意味も含めて切除バイオプシーをする事にした。病理組織検査の結果は組織球性肉腫でした。文献を見ると外科手術+化学療法を実施したフラットコーテッド37例の研究では中央生存期間123日間、緩和治療のみでは17日間と言う結果である。そこで今回の症例は外科手術と化学療法剤(ロムスチン)の治療を選択した。現在化学療法を実施しているが、ロムスチンの副作用として起こる可能性のある白血球減少や肝障害は現在のところ無く、一般状態は良好である。写真は前肢上腕内側に見られた腫瘤(筋層と筋層の間に存在)の切除した際の術前所見(上段左)と切開切除中(上段右)、摘出した複数の腫瘍塊(中段左)、術後(中段右)そして体表の他の部位にあった腫瘤の切除した組織(下段)

 

メインクーンの頚部気管のリンパ腫

13歳のメインクーンが1~2週間前から鼻がグズグズ音がしたり、ゼーゼーするようになってきたという主訴で来院。かなりの吸気性の努力呼吸による呼吸困難でしたので、すぐにICUの高濃度酸素室に入れて安定化したところで、血液検査およびレントゲンを撮った。結果、糖尿病と中等度の胆管肝炎があったが、X線検査で頚部気管の重度の狭窄がみられたため、できるだけ早期にステント等で気管を広げる処置をする必要があった。そこでジャーメック(日本高度動物医療センター)をご紹介した。入院から4日後、酸素ボンベ持参で移動中も酸素を吸入した状態でジャーメックに行っていただき、ステントの装着を実施。細胞診により節外性ハイグレードタイプのリンパ腫という診断結果が出た。リンパ腫は体のあらゆるところに発生する可能性がありますが、頚部気管に発生するタイプは珍しい。退院後は肝疾患の治療と糖尿病のインシュリン治療とリンパ腫の化学療法を実施、現在も継続治療をしているが、一般状態はきわめて良く、初診から約2ヶ月になるが、腫瘍は全く消失しており、呼吸は正常、糖尿もコントロールできており、胆管肝炎も治癒している。

下の写真は初診時の頚部の狭窄部とステントを入れた後のレントゲン写真

 

 

ゴールデンレトリーバーの線状異物による嘔吐・食欲廃絶

11歳のゴールデンレトリーバーがいつの間にか飼い主の知らないうちに、綿の厚手の布製品を呑み込んでいて、その布が一部ほずれていて、胃から小腸までその糸によりたぐられて、布自体が小腸に閉塞を起こしていた。下の左の写真は超音波検査により、たぐられた腸とその中心に高エコー(白いライン)がみられ、右のレントゲン写真では線状異物に特徴的なガス像が見られた。 

 

 

 
 この子は開腹手術により胃切開と、小腸を3ヶ所切開し、異物を摘出したが、小腸全体に粘膜下織までの損傷があり、術後の腹膜炎等が懸念されたが、経過は順調で6日目に元気に退院した。開腹時、脾臓に2.5cm程の円形の腫瘤(右の写真)が認められたため、脾臓摘出も実施したが、病理組織検査の結果は脾臓の結節性過形成というもので、腫瘍ではなく組織の一部が過形成をおこしているだけなので、切除をすれば問題ないというものでした。

 

 

 

皮膚病診断のための皮膚バイオプシー検査

皮膚病の診断は動物種や年齢、もちろん現症と病歴、そして季節性や生活環境、病変の分布等が参考になり、さらに寄生虫や真菌、細菌の感染症などの鑑別のための検査を実施し、それでもはっきりした原因が分からない時には皮膚のバイオプシー検査を実施いたします。

皮膚バイオプシーの方法はいわゆるパンチバイオプシーといわれる方法が一般的です。先端が円筒形の刃になっており、皮膚に押し当てながら回転させると、円形の皮膚組織が取れます。下の写真はその方法を順に示しています。