若いミニチュアダックスフントの耳の脱毛症(先天性血管症)

1歳のミニチュアダックスフントが4ヶ月前頃から両耳の耳介の脱毛と色素沈着、痂皮形成(かひ・かさぶた)が進行してきた。ミニチュアダックスに多い耳介の脱毛にはパターン脱毛というのがあるが、通常は成犬で発症し、均一な脱毛で痂皮などは形成しない。下の写真のような病変は今まであまり見たことがなかったので、皮膚のバイオプシーによる病理組織検査を実施した。その結果、先天性血管症による循環障害に合致するもので、合併症や鑑別として、カラーダイリューション脱毛症や黒色毛胞形成異常症にも配慮が必要というコメントだった。治療としては血管の強化剤や末梢血管を広げる作用の薬剤、さらに被毛の代謝を促進したり、被毛そのものを強化するようなサプリメントなどで根気良く治療していくことになる。いずれにしても皮膚の病理組織検査の重要性を改めて実感した。

 

 

 

6階のビルから落下した猫(フライングキャット症候群)

 

6階のマンションから落下した6ヶ月齢の猫が救急で来院した。来院時はショック状態でうずくまった姿勢のまま動かなかった。鼻出血と口腔内からやや出血があり、呼吸速迫で頭頚部の辺りを触れるだけで怒り出す。静脈を確保し輸液開始、鎮痛剤投与、酸素吸入、ICUで絶対安静。X線検査で肺の挫傷と思われる右の肺全体の間質及び肺胞パターンを示していた。左の第1肋骨の骨折はあったが、それ以外の骨折はない. その後の経過は順調で翌日には呼吸はほぼ正常になり、食事を少しづつ食べ出した。翌日の夕方にレントゲン写真を撮り、来院時のものと比較すると肺の病変が改善しているのが分る。4日目には状態もまったく戻り、原則安静ということで退院した。
 

 

上の写真:左から受傷後、治療後12時間の肺の状態、第一肋骨の骨折

 

 

上の写真:左から受傷後、治療後12時間の肺の状態、回復して食事をしている患者さん。

以下はウェブサイトで検索した中の文章を引用させて頂きました。

フライングキャット症候群(flying cat syndrome)、またはハイライズ症候群(high-rise syndrome)猫高所落下症候群とも言われますが、昨年発表された論文では、平均落下階数は2.65階。そして落下後生存したのは98.8%、さらにその後後遺症により安楽死をした猫を死亡頭数に加えると、生存率は94%であったと発表されています。

つまりそれほど高くない高さから落ちても6%の猫は亡くなるあるいは重大な後遺症が残ることを意味しています。

猫はバランス感覚に優れ、落下中に体勢を整えるので2~3階から落ちても無傷のことが多いですが、死亡例もあります。

高所から落下した場合怪我をしやすい部位は四肢、顎、頭蓋、胸部です。外見上異常がなくても肺が破れていたり骨折していることがあります。

2階以上で猫を飼っている方は低層階だからと安心してベランダに猫をださないこと、窓を開けっ放しにしないことを徹底することが最大の予防です。

時間的猶予があれば体勢を整えまた足周りの皮膚をひろげムササビのように空気抵抗を稼ぎ落下速度を落とします。

そのため7階以上から落下した方が怪我が少ないのではないかと経験的に言われています。つまりもし同じような状況,地面で落下した場合に怪我をしやすい順に並べると

3〜7階>7階以上>2〜3階

となります。ただこれはあくまでも仮説です。計算上猫の体重と体積からいくら高くから落ちても時速100km/hは超えないそうです。

高所からの落下は様々な報告がありますが、どれが一番高いかは不明です。ボストンの白猫シュガーは19階から落下し軽度の肺挫傷以外全く無傷だったそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

16歳の猫の尾の皮膚にできた腫瘤(毛芽腫)

16歳の猫の尾に腫瘤があり、最近大きくなってきたと同時に出血をするので、何とかしてほしいという主訴で来院。腫瘤は尾の円周の半分近くを占めるため、その部分だけ切除するとなると、皮膚移植をしなければならないので、その後のケアーが難しくなる。飼い主との相談で一番早く解決するには断尾手術なので、そちらを実施することになった。写真は術前(上2枚)と術後(下2枚)。

 

病理組織検査結果は毛芽腫(以前基底細胞腫と言われていたもの)で良性腫瘍でしたので、完全切除されていますので再発の危険はほとんどない。

 

 

 

 

 

 

左房破裂を起こした僧帽弁閉鎖不全症の犬が3日目に退院

数年間、慢性僧帽弁閉鎖不全症の内服治療をしていた10歳半のキャバリア・キングチヤールス・スパニエルが咳が酷くなったということで来院。2日後にお預かりをしてまもなく状態が悪化。水平眼振や後弓反張、横臥となり、ショック状態、意識消失となった。また心電図検査では心室性期外収縮が連発している状態だった。エコー検査で心嚢内に液体が貯留し、いわゆる心タンポナーデという状態だったため、すぐに心嚢水(血液)を抜去(135cc)。その後リドカインという抗不整脈剤やドパミン、ドブタミン等の強心剤で、次第に改善してきたため、数年間内服していた血管拡張剤2種類とピモベンダン、利尿剤等を再開し、24時間監視で血圧測定、心電図モニター、酸素分圧、尿量モニター、エコー検査等を継続した結果、順調に改善、意識状態も戻り、神経症状も消失し、食事や飲水ができるようになったため、来院3日目に退院できる状態にまでなった。通常左心房の破裂を起こした場合、処置をする前に急死をすることが多く、当院の循環器疾患専門の担当である滝沢獣医師の献身的な集中治療によって、退院できるまで回復した。その後は毎日朝から夜までお預かりして治療を続けた。8日間は安定していたが、9日目に咳が出だし、再度心不全の状態になり、肺水腫を起こしてきたためその治療に入ったが、飼い主の方のご希望で安楽死を選択され、ご希望に沿った処置をした。飼い主の方からは、「一度死にかけた状態が、一時的にも回復し、歩けるようにもなり、食事も食べれるようになったので、感謝しております。」とおっしゃっていただきました。緊急時だったため、画像データがなく、心嚢水を抜去する前と後のレントゲン写真がありましたので、アップしてみます。上から側面像で術前と術後、腹背像で術前と術後になります。何れも術後の心陰影が縮小しているのが分かる。  
 

 

 

 

 

 

 

 

下痢症状で来院したボクサーに脾臓の巨大な血管肉腫

 

9歳のボクサーが1週間前からの下痢症状と 昨日嘔吐、よくお聞きすると最近食欲にムラがあるということだった。血液検査の結果は中等度の貧血と中等度の血小板減少症、アルカリフォスファターぜの上昇くらいで他には異常がなかった。X線検査では中腹部に大きなマスがあり、計測すると15cm×21cmくらい(写真①)のものであった。超音波検査で見たところ、マスの内部は高エコー部と低エコー部が混在している様子(写真②)が分かる。また腹腔内に液体が溜まっている(写真③)のが分かった。

 

写真①

 

写真②

 

写真③

 

 
 下の写真④は開腹直後の様子、写真⑤は摘出した腫瘍化した脾臓で重さは2.7kg.あった。術後の経過は順調で食欲もかなり出てきて、元気も良くなったので3日後には退院した。その後の病理組織検査の結果は大きな腫瘍部分は血管肉腫で、その他の場所はうっ血と髄内造血があった。術中肝臓を見たが表面に小さめの腫瘤が少数散在していたので、肝臓転移もあるかも知れない。いずれにしても、特に化学療法などをしなければ、早ければ1ヶ月か2ヶ月で状態が悪くなり死亡という事も考えられます。

 

写真④

 

写真⑤

 

1年以上前から嘔吐がある犬に何が起きていたか

他院にて昨年9月頃より慢性の嘔吐の治療を受けていた7歳の雑種犬が、ここ1週間位前から元気食欲がなくなってきたということで、2件目の病院からご紹介で来院した。この子は昨年来、低蛋白血症があった為、蛋白喪失性腸症の疑いでステロイドの治療を受けていた。ただステロイドの内服をしていても嘔吐は相変わらず存在していた。また3月頃から投与量を減らしたり、投与間隔を空けたりしていた。

一通りのルーチン検査(完全血球検査、血液化学検査、X線検査、超音波検査) をした結果、血液検査では白血球(好中球・単球)の増加、アルカリフォスファターゼの増加、電解質の全体の低下、犬特異的リパーゼ活性の高値、凝固系の時間の延長などがみられた。X線検査では十二指腸内のガス像やその他の小腸内の異常ガスが認められた。超音波検査では胃及び小腸内に液体が溜まっており、腸管内でその液体がほとんど動かず、腸管の動きがあまりなく留まった状態だった。飼い主の方と相談の結果、原因が分からないままの治療では、死ぬのを待つだけになるので、開腹してつき止めてくださいとのことでしたので、試験的開腹をした。その結果、開腹したとたんに濁った少量の腹水と異臭が放たれたのと、十二指腸近位の2ヶ所に腸管穿孔があり、膵臓には1㎝ほどの小さな腫瘤があった。穿孔部分は色が黒ずんでいた為、全体を切除し縫合した。また十二指腸・空腸・回腸をそれぞれパンチバイオプシーをして、病理組織検査に出した。そのことで基にあった疾患の特定ができるかもしれません。術後腹腔内を6リットルの生理食塩液で洗浄し腹腔内に漏れた糞を完全に近く洗い流すことをした。写真は上から①十二指腸の穿孔部分、②その穿孔部を切除縫合した後、③膵臓にあった小腫瘤、の順。病理検査の結果を見ないと確定はできないが、ステロイドを長期間投与していたために、十二指腸に潰瘍を起こしたり、膵炎が合併したのではないかと考えられる。   
①  

 

 

大きな肥満細胞腫の切除

7歳の雑種犬の前肢の上腕内側に直径8cm程の腫瘍が最近になって大きさが増してきたということで来院した。針生検で細胞診をした結果、肥満細胞腫と診断し、飼い主の方と相談の上、切除をして病理組織診断の結果でその後の抗癌剤等の使用の決定をすることになった。

切除手術は腫瘍の周囲2cmの広さで実施する必要がありますが、この場所は皮膚の余裕のないところなので、確実に皮膚フラップ(弁)を利用した皮膚の置換術を実施した。

写真は上から切除前、腫瘍切除直後、術後。

 

 

 

フラットコーテッド・レトリーバーの皮膚腫瘤

フラットコーテッド・レトリーバーの大き目の皮膚の腫瘤が足の裏と耳に存在(下の写真の上と中段)。ここ1週間以内で急に増大してきた。通常この手の腫瘤は特にこの犬種では悪性のものが多いが、切除バイオプシーをした結果、どちらも好酸球性浸潤と肉芽組織形成を伴う皮膚炎と言う診断だったため、抜糸後抗生物質とステロイドの治療を開始した。脾臓の3cm大の腫瘤は術前検査で発見したもので、結節性過形成という非腫瘍性病変でしたので、切除するだけで心配ないものだった。   

 

 

 

 

 

 

尿道結石による尿閉

高齢のビション・フリーゼが踏ん張って便が出ないようだということで来院。血液検査とX腺検査で、尿道に10個以上の結石が詰っており、これが原因で排便ではなく、排尿ができない状態だった。下のX腺写真でペニスのOS.PENISという骨の溝に走行している尿道部分から手前に十数個の結石が詰っているのが分かる。 

 

 

 
 通常の処置としては尿道に詰っている結石をペニスの先端からカテーテルを挿入し、水圧をかけて膀胱に戻し、膀胱切開をして結石を摘出する。しかし尿分析をした結果から、シュウ酸カルシウム結石の可能性が高く、結石の表面がゴツゴツしていた為、どうしても膀胱内に戻すことができなかったため、ペニスの根本の尿道を切開し、そこから結石を摘出し、且つ尿道切開術を施して、そこから排尿をさせるようにした。このことにより、万一膀胱結石が再発した場合、同じ場所に閉塞を起こすことを予防できることになる。術後の状態と取り出した結石が下。

 

 

 

野鳥・ムクドリの保護

ムクドリが落鳥しているのを発見した方が保護して、当院に持ち込まれた。両足が麻痺しており、明らかな神経症状があった。排泄物も黒っぽい色をしており、消化管の出血を示唆していた。当院のエキゾチックを専門に診ている大竹先生は鉛中毒の疑いがあるとのことで、X腺検査をしたら、腸管内に数ヶ所、小金属片が写っていた。鉛のキレート剤であるブライアンと言う薬剤を使用して治療に入ったが、その後も治療の反応なく、2日目に亡くなってしまった。鉛中毒は自然の中では通常起こらない病気です。恐らく人間の捨てたものを口にしてしまったのかもしれません。何とも言えない虚しさを感じました。