チェリーアイに良く似ている瞬膜(第三眼瞼)の腫瘍(腺癌)

9歳のトイプードルの右目がおかしいということで来院した。一見瞬膜の腫れ方からするとチェリーアイのようだが、チェリーアイ(先日の症例写真①)は通常2歳以下の若い年齢に多いのに、この子は老齢になって発症しており、チェーリーアイにはほとんど見られない目やに(眼脂)が多く(写真②)目の周囲が汚れていた。また瞬膜を反転するとチェリーアイのように表面がスムースではなく、凹凸がある(写真③)ので、まずは腫瘍を疑って、ニードルバイオプシーを行なったところ、あまり悪性度の高くなさそうな上皮系の腫瘍細胞が見られた。その為飼い主の方と相談し出来るだけ腫瘍をしっかり切除し、その摘出した腫瘤を病理組織検査に出すことにした。その結果は第三眼瞼腺由来の腺癌ということでした。動物の第三眼瞼腺由来の癌の報告はかなり少なく、予後などについての報告は非常に少ないので分からないというコメントでしたが、局所再発は充分考えられるので要注意ということになる。

写真①            写真②

写真③

胸水貯留を伴った縦隔の高分化型リンパ腫の猫

11歳の猫が元気消失、1週間前から食欲廃絶、呼吸速迫という状態で来院した。レントゲン検査で胸水の貯留が認められた(写真上段右)ため、呼吸改善と胸水の細胞診の目的で胸腔内の液体を210ml抜去した(写真上段左)。縦隔内の腫瘤の針生検および胸水の細胞診で胸水には腫瘍性リンパ球が多数出現しており、IDEXでの検査結果は胸腔内の腫瘤はT細胞のリンパ芽球性リンパ腫が疑われるというコメント。また胸水のPCR検査の結果はTリンパ球のリンパ腫が疑われるという結果。つまり胸腔内前胸部の腫瘤は胸腺腫などではなく、高分化型のリンパ腫であった。その後3種類の薬剤を使用するCOPプロトコールを開始(化学療法剤開始時が下段写真右)、この時点ですでに胸水が増加している。化学療法開始から1週間後には胸水はかなり減少し、一般状態が改善し、元気食欲はほぼ正常と思われる状態に戻った(下段写真左)。現在は食欲旺盛、呼吸状態や元気も完全に戻った。

慢性リンパ球性白血病のウェルシュコーギーの1年後

16歳のウェルシュコーギーで昨年7月の段階ですでに体表リンパ節の全てが腫大し、リンパ節の針生検による細胞診で高分化型の多中心型リンパ腫であることが分かっており、しかも末梢血のリンパ球が28000(正常値3000位)もあり、軽度の貧血も伴っていたため、慢性のリンパ球性白血病になっていることが予想されていた。しかし本人が無症状であることから、飼い主の方も特に治療を希望せず経過観察になっていた。最近まで特に大きな変化は無かったが、だいぶ年をとってきた感じがして、歩き方もややフラツキがあったそうだが、この2週間ほど前、このコーギーが車の下にいたのに気がつかず、動かしてしまい、そこから飛び出てきてから後、ほとんど歩けなくなってしまったという主訴で来院した。神経学的検査で上部運動神経症状を伴う後肢の不全麻痺があったので、脊椎のX線写真を撮ったところ、腰椎の部分骨折(下の写真矢印)が見つかった為、安静と対症療法(ステロイドを含む)を実施した。昨年から高分化型の多中心性リンパ腫は相変わらず存在し、昨年よりサイズがやや増大していることや血液のルーチン検査をしましたが、以前から多かった中型のリンパ球が44000にもなり、しかも貧血が進んできたため、ステロイドの使用も悪くはないと判断した。7日後にはかなり元気が出てきており、症状の改善がみられている。

 

 

ブルドッグのチェリーアイ(第三眼瞼腺逸脱)

瞬膜の内側にある線組織の炎症が原因で大きくなると、さくらんぼの様に赤く外側に飛び出してくるものをチェリーアイと呼びます。チェリーアイになった犬は、目を気にして前足でこすったり、まぶしそうに目を細めたり、まばたきの回数が増えたりといったしぐさが見られるようになります。そのほか、流涙(涙を流すこと)や目の充血が認められます。チェリーアイは片方の目だけに起こることもありますが、両方の目に起こることもあります。 通常、生後6ヵ月齢から2歳齢くらいの若い犬に多く認められます。

今回は1歳に満たない若いブルドッグが、1ヶ月ほど前に左目のチェリーアイの手術をして、完全に治癒していましたが、今回は反対側の右目のチェリーアイが発症した。今回の方がより大きな突出(写真①)でしたが、20分弱の手術で終了し、術後(写真②)はきれいに戻すことができた。

写真①

写真②

 

ミニチュア・ダックスフンドの脾臓と肝臓の血管肉腫

急な元気消失、虚脱状態で急患外来で運び込まれた11歳のダックスフンドのX線検査(写真①)と超音波検査で、脾臓(写真③)および肝臓に大小の腫瘤(写真④)があり、腹腔内には液体(血液)が貯留(写真②)、心臓のエコーでは右心室壁の腫大(写真⑤)があった。血液検査では再生性貧血を伴いヘマトクリット値が1ヶ月前の数値より19%減少していた。すぐに輸血準備をしてクロスマッチテストを確認した後、約200ccの血液を供血犬から採血し、輸血をしながら手術を実施した。開腹すると腹腔内は血液で満たされ(写真⑥)吸引してみると約300cc溜まっていたことが分かった。出血部位は脾臓の腫瘤と肝臓の腫瘤の2箇所であった。写真⑦は摘出した脾臓、写真⑧は肝臓の病変部です。

病理組織検査の結果は脾臓および肝臓の腫瘤はいずれも血管肉腫だった。脾臓に関しては完全切除になったが、肝臓は肝臓全体に大小の腫瘍が存在していたことから、不完全切除であり、残った腫瘍が今後増大し、再度そこから出血することは充分考えられる。更に心臓の右心房の壁にも腫瘤があることから、こちらからの出血で心タンポナーデになることもあり得る。

飼い主の方には術前からこのことはお話させて頂いていたので、ご理解いただいています。また寿命に関しては長くて3ヶ月、短いと1ヶ月またはそれ以内のこともお伝えしました。このように血管肉腫はとても悪性度の高い腫瘍ですので、やはり早期発見、早期治療が大切になります。

写真①

写真②

写真③

写真④

写真⑤

写真⑥

写真⑦

写真⑧

 

 

 

 

 

 

 

 

11歳の犬の肛門周囲の腫瘤(肛門周囲腺癌)

数年前に他院で肛門周囲の腫瘤ができて、手術をした病歴があるアメリカン・コッカースパニエルが同じところにまた腫瘤ができてそこから出血をしてきたという主訴で来院した。前回は良性腫瘍で、去勢手術もしたということですので、おそらく肛門周囲腺腫だったと考えられます。今回も数年前のものとよく似ているということでしたが、X線検査で腰下リンパ節がかなり腫大(写真②)しており、悪性腫瘍のリンパ節転移が考えられた。また肝臓の一部が腫大(写真①)しており、エコー検査で散在する低エコー部が見られた。飼い主の方と相談の結果、出血している肛門周囲の腫瘍を取り合えず何とかしてあげたいとのことでしたので、ここを切除バイオプシー(写真③)とし、リンパ節も一部生検をさせていただくことにし、肝臓は一部の組織をクサビ生検(バイオプシー)(写真④)をすることになった。病理組織検査の結果は肛門周囲の腫瘤は肛門周囲腺癌で腰下リンパ節には既に癌細胞がここで増殖しており、いわゆるリンパ節転移が認められた。肝臓の複数のマス(腫瘤)は肝臓過形成ということで腫瘍ではなかったので、こちらはそのままで問題はありません。腺癌に関しては来院した飼い主の方はこれ以上の外科手術や化学療法、あるいは放射線療法は希望されませんでしたが、最終結論は家族ともう一度相談して決めたいとのことでした。

写真①

写真②

写真③

写真④

 

 

16歳のネコさんの多血症

10日前に20歳のネコさんの腎臓癌が原因の多血症をご紹介しましたが、今回は16歳のネコさんの多血症です。症状は元気・食欲なしヘマトクリット値が68%、X線検査(写真①)では左腎の腫大がみられ、エコー検査では左腎に3cm×4.5cm大の腫瘤(写真②)が認められ、右腎には1.2cm大の低エコー部(写真③)が存在していた。左腎の腫瘤の針生検で上皮系の悪性腫瘍細胞(写真④)が散見された。従ってこのネコさんも腎臓癌の可能性が高い。以前から慢性腎不全があったことと、年齢が高齢なため、この飼い主の方も積極的な治療は希望されなかったため、数日の静脈輸液の後、皮下輸液にして維持していくことになった。もちろん定期検査をしてモニタリングしながら体調の変化に伴った治療をしていくことになる。猫の腎臓の腫瘍はリンパ腫が圧倒的に多く、ステロイドによく反応したり、化学療法によって寿命をある程度よい状態で延ばせることが多い。しかし何故か前回と今回の症例はどちらも腎臓癌だった。かなり珍しい症例が重なったが、これらのネコさんにとっては今後のいわゆる予後が心配である。

写真①

写真②

写真③

写真④

 

腎不全の治療を受けていた猫、実は・・・

他院にて慢性腎不全の治療を受けていた10歳のネコさんが、次第に食べなくなって状態が悪くなってきたということで、当院に転院された。確かに血液検査をすると慢性腎不全がありましたが、数値としてはそれほど高い数値ではありませんでした。しかし腹部を触診してみるとやや腫大した腎臓と中腹部に直径4~5cmのサイズの塊が触知されたので、レントゲンと超音波検査を実施してみると、小腸壁が重度に肥厚してできた腫瘤であることが分かりました。さらに針生検による小腸の塊状病変の細胞診では非上皮系の悪性腫瘍と思われる大型の細胞が多く見られました。つまり何らかの肉腫ということになります。血液検査では白血球数が少ないのに好中球の左方移動と単球が高値を示していたことから、感染が重度である事が分かり、レントゲン所見からすでに腹膜炎も起こしていたのです。これらのことから予後は不良ということになります。入院して静脈からの輸液および抗生物質2種類投与とさらにその他のできる限りの治療をしましたが、やはり好転せず3日目に亡くなりました。もう少し早い時期に腫瘍が見つかっていれば、寿命ももう少し延ばせたかもしれないと思うと残念でなりません。

下の写真は超音波検査所見(小腸の腫瘤部)

下の写真は腹部X線検査所見

 

 

 

 

 

多血症の20歳のネコさん

20歳のネコさんが元気食欲の低下で来院した。この子は以前に交通事故で骨盤骨折の手術をしており、骨盤腔の狭小化による便秘症もあったため、糞塊の除去も実施した。ルーチンの血液検査ではPCVが73%もあり、かなりの血液の過粘稠度症候群になっていた。動物の場合は組織の低酸素症が起こるような慢性呼吸器疾患や先天性心臓病の他、骨髄増殖性疾患や腎臓腫瘍やその他のいくつかの腫瘍に見られます。猫の場合はほとんどがリンパ腫が原因ですが、針生検による細胞診をしたところ、左の腎臓に上皮系腫瘍(癌)ができていたために、造血因子であるエリスロポイエチンが過剰に生産され、その結果、赤血球が生産し続けて多血症になっていたと考えられる。飼い主の方も年齢が年齢なので、積極的な治療は 希望されなかったため、瀉血と輸液を必要なときに定期的に行うだけとした。それでも本人は何とか食事も食べられ、普通の生活ができるようになっている。

下の写真はレントゲンと超音波検査の画像です。

 

 

 

 

 

 

口唇に発症した犬の皮膚型リンパ腫

14歳の雑種犬の下顎の口唇部皮膚と粘膜の境にサイズ2cm弱の腫瘤が最近大きくなってきたということで来院。細胞診でリンパ腫の疑いがあったが、診断を確実にするためと、下顎リンパ節や扁桃の腫大がなく、他の部位の異常がないこと、また慢性の腎不全があることや年齢的に抗癌剤の使用が限られるため、切除バイオプシーをすることになった。

病理組織検査の結果は皮膚型リンパ腫で表皮向性を示すT細胞性の可能性が高いというもの。かなり進行性で抗癌剤が効きにくいタイプということになる。飼い主の方と相談した結果、抜糸後周辺などに転移等が見られるようだったら、その時の状態で抗癌剤を検討したいということでした。下の写真は術前と術後の状態。