犬の前十字靭帯断裂(TPLOによる修復手術)

 

『前十字靭帯』は膝関節の中にある靭帯のひとつで、膝関節の過度な伸展を防止し、脛骨の前方への動揺と過度な内旋を制御している。

そのため、膝に過剰な力がかかったときに断裂してしまうことがある。

 

犬では、運動時に断裂がおこることはまれで、そのほとんどは加齢性および変性性変化があらかじめ靭帯に生じており、そこに負荷がかかる(散歩や階段の昇降といった日常生活での運動でも)と後押しになり、前十字靭帯が損傷・または断裂する。

 

症状は、前十字靭帯が部分断裂または完全断裂なのか、急性または慢性なのか、半月板損傷の有無によりさまざまな跛行(足を引きずる)がみられる。

 

前十字靭帯断裂に対しての治療は、外科手術が第一選択とされる。

当院では、症状が軽度・体重が軽い・外科療法を行ったときに合併症の発生リスクが高いと判断される症例に対しては、運動制限や鎮痛薬・サプリメント投与などによるの保存療法を行っている。

 

外科手術が適応になった症例には『TPLO(脛骨高平部水平化骨切り術)』という下腿骨の脛骨の関節面の角度を変える手術を行っている。

当院の手術室にはCアームという外科用のデジタルX線画像診断装置があり、手術中にリアルタイムで骨やピン・プレートの確認をおこなうことができる。

 

膝関節を露出し、断裂した前十字靭帯の処理と剥離していた半月板軟骨の切除をおこなった。(写真の症例はラブラドール・レトリーバー)

大腿骨と脛骨に固定具を装着し、脛骨近位を切断する半円形の器具を使用しているところ。

CアームX線装置で脛骨の角度を決めて、プレートと螺子できちんと固定されているかの確認をした。

 

術後のX線写真で膝関節が良い角度に修復されているのが分かる。

 

 

当院では、毎週火曜日と日曜日(午前中)に整形外科(長澤先生)の診療を行っています。

詳細はコチラのHPよりご確認ください。

http://www.hah.co.jp/specialist/geka.html

ネコの腟脱

5才のネコ(バーマン)が自宅にて4頭の子猫を出産し、その後さらに力んで膣が脱出してきたとのことで来院された。
来院された際は、7〜8cmの長さで膣が脱出しており粘膜からの出血、血行不良のため黒ずんだ部位も見られた。また、膣が脱出してから来院までは1時間ほど経過しており、かなり腫れている状態であった。
鎮痛剤を投与し、胎児が残っていないかを確認するためにレントゲン撮影を行なった。胎児は確認されなかったため、脱出した膣を暖かい生理食塩水で洗浄し体腔内へと押し戻した。その後、生理食塩水を注入し再脱出を防止する目的で陰部を1糸縫合した。

腟脱は犬で発情期や分娩時にごく稀に発症するとされており、猫での発症も稀だと思われる。出産を予定していないのであれば卵巣・子宮摘出を行うことで腟脱の予防はできる。今回のような出産直後の腟脱や子宮脱は予防策はないが、できる限り早急に来院していただき処置する必要がある。

パグ犬の軟口蓋過長症の手術

パグやフレンチブルドッグといった短頭種のワンちゃんに起きやすい『短頭種気道症候群』という呼吸がとても苦しくなってしまう病気があります。

 

短頭種は鼻孔・鼻腔・咽頭がせまく、また軟口蓋という口腔内の天井部(硬口蓋)から後方にのびた柔らかい部分が通常より長いことにより(軟口蓋過長症)気道をふさいでしまうことなどが原因で発症します。

 

これらは先天的な要因ですが、それに加え『肥満や高温・多湿、興奮』といった、呼吸に影響をあたえる状態・行動がさらに病態を悪化させてしまい、場合によっては呼吸困難で命に関わる場合もあります。

 

長期慢性的に気抵抗が上昇していると、喉頭軟骨の変性や気管虚脱が生じることがありますが、その状態になる前に外科的に軟口蓋を切除する選択肢があります。

 

今回の症例は1歳齢のパグ(未避妊雌)

間欠的ないびき・喘鳴音が日常的にみられため、

①避妊手術と同時に

②軟口蓋過長部位の切除

③鼻腔狭窄に対する鼻翼切除  を行った。

 

短頭種は呼吸器の先天的な形態の異常が認められることがあるため、一般的な犬の麻酔よりもリスクを伴うことがある。

 

当院では短頭種でも安全に麻酔がかけられることを、術前検査として血液検査・レントゲン検査・心電図などを実施し総合的に判断をしてから麻酔を実施している。

 

今回の症例の動脈血酸素飽和度(SpO2)は覚醒時で94~95であった(基準値は95~100)

 

また当院では、避妊・去勢手術を含む全ての手術で、静脈カテーテル留置・気管挿管を行い、さまざまなモニターで動物の状態を把握している。

 

↑過長している軟口蓋をけん引し、切除・縫合しているところ

今回の手術は金子院長が担当

 

麻酔覚醒時は呼吸が安定化するまで、気管チューブを抜管せず留置し、酸素室で穏やかな覚醒を行った。(麻酔科の安獣医師が担当)

術後は良好で、呼吸がスムーズであったため、予定通り手術翌朝に退院した。

 

短頭種犬の飼い主様で、呼吸が苦しそう、麻酔のリスクが心配(歯石処置含め)という方は、当院に一度ご相談ください。

 

犬の中手骨骨折整復

15歳の小型ミックス犬が、ドアに左前足をはさんでしまった、とのことで来院された。

 

来院時には左前肢の完全挙上がみられらた。

 

レントゲン検査では、左前肢の第2,3,4,5中手骨の骨折を確認した

骨折整復の手術は、当院の整形外科担当の長澤先生が行った。

全身麻酔下にてピンニング固定による手術を行った。

(第2指はピン無し、第3指は1.0mm、第4,5指は0.8mmのピンを選択)

 

また、掌側はハードキャスト(スコッチキャスト)を使用し、ロバートジョーンズ包帯法にて固定した。

 

術後は定期的に仮骨の増生や骨癒合をレントゲンにて確認し、およそ2か月後にピンを抜去する予定である。

 

おうちのドアで足やしっぽをはさんでしまう事故には注意しましょうね~!

犬の会陰ヘルニア整復

肛門の横が腫れているとの主訴で、12歳のトイプードル(未去勢雄)が来院された。

身体検査にて左右両側の会陰ヘルニアを認めた。

レントゲン検査では直腸や膀胱などの臓器の逸脱は認められなかった。

 

※ヘルニアとは、体内の臓器などが、本来あるべき部位から「脱出・突出」した状態

 

 

ヘルニア内容は脂肪組織であった。

直腸を支持する筋肉群の萎縮が進行していたが、ヘルニア孔の閉鎖は自己筋組織をもちいておこなった。同時に去勢手術も実施した。

 

 

 

会陰ヘルニアは中~高齢で未去勢の小型犬、または中型犬に多く発生する。

 

直腸を支持する筋肉群が萎縮、または筋膜間の結合の分離によりヘルニア孔(輪)が発生し、骨盤腔内・腹腔内の組織や臓器が会陰部の皮下に脱出する。

 

治療には外科的な整復術が必要な疾患である。

 

整復法の術式は症例によってさまざまで、内閉鎖筋フラップ、半腱様筋フラップ、仙結節靭帯、総鞘膜、ポリプロピレンメッシュなどをもちいて整復をおこなう。

 

会陰ヘルニアの主な発生要因は、アンドロゲンまたはテストステロンであることが示唆されているため、若齢期に去勢手術を実施することで、会陰ヘルニアを予防または再発を予防することができる。

 

 

猫の口腔内の扁平上皮癌

左側の口が腫れている、という主訴で13歳のネコが来院された。

口腔内の左側上顎歯肉に腫脹病変部位を認め、その一部は感染により排膿・壊死をおこしていた。

 

 

麻酔前スクリーニング検査を実施後、全身麻酔下にて病変部位の組織生検をおこなった。

病理検査の結果は【扁平上皮癌】であった。

 

 

扁平上皮癌は、猫の口腔内に発生する悪性腫瘍のなかでは最も多く発生すると報告されている。(発症平均年齢は11.6~13.5歳)

 

 

一般的に猫の口腔内扁平上皮癌は犬と同様に局所リンパ節、遠隔部位への転移率は低い。

そのため、病変局所のコントロールがとても重要である。

治療方法は発生部位・病変の大きさなどによってことなるが、早期に発見された症例は外科切除が適応になる。

 

しかし、診断時にはすでに腫瘍の増殖が進行し、外科切除の適応外になっていることも少なくない。

 

そのような症例には、疼痛や腫瘍の増大に伴う合併症の緩和目的で放射線療法が適応となる。

しかし、猫の口腔内扁平上皮癌は他の内科治療も含め、治療は困難を極め、全体的には予後が不良である。

 

当院では、猫の口腔内扁平上皮癌に対し、切除可能であれば外科治療を実施し、そのほかにも内科療法(リン酸トラセニブ、非ステロイド性抗炎症剤)を実施している。

 

また、自力採食が困難になった症例に対して、飼い主様と相談の上、経食道チューブや胃ろうチューブを設置することもある。

 

 

イヌの免疫介在性溶血性貧血(IMHA)

数日前から元気が無く、食事を食べる勢いも無いとの主訴で15歳のイヌが来院された。身体検査では体温が39.5 ℃と発熱しており口腔粘膜は蒼白であった。血液検査ではヘマトクリット値は17.2 %で重度に貧血しており、CRPは14 mg/dlと高値であった。血液化学検査では異常は無く、レントゲン検査および腹部超音波検査で軽度の脾腫以外の異常は無かった。血液塗抹では赤血球の大小不同があり、球状赤血球の顕著な増加、多染性赤血球、ハウエリジョリー小体、赤芽球の出現が確認できた。網状赤血球数も増加しており再生性貧血と判断した。自己凝集は無く、クームス試験は陽性であった。これらの所見から免疫介在性溶血性貧血と診断した。

一般的にIMHAの治療としては免疫抑制療法を行うが、その主軸となるのはプレドニゾロン(ステロイド)である。プレドニゾロンに加えてその他の免疫抑制剤を併用することもある。また、重度の貧血の場合は輸血やヒト免疫グロブリン製剤で免疫抑制療法が効果を示すまでの時間稼ぎをする必要がある。また、IMHAは血栓症や播種性血管内凝固(DIC)を高率に併発するため要注意である。
このイヌでも来院初日より免疫抑制療法、抗血栓療法や輸血、補助療法を行うことで、一命を取り留めた。退院後はプレドニゾロンを漸減し、その他の免疫抑制剤に切り替えていった。

IMHAは致死率の高い緊急疾患と考えらており迅速な対応を必要とする。

写真では多数の球状赤血球が確認できる(正常な赤血球は真ん中が白く見えるが、球状赤血球は小さく濃く染色される)

犬の小腸腺癌による腸閉塞(外科治療)

 

12歳の柴犬(避妊雌)が昨日からの食欲廃絶、嘔吐を主訴に来院された。

血液検査ではCRPの軽度上昇(2.5mg/dl)がみられたが、その他の項目はSpec-cPLを含めて正常であった

腹部エコー検査にて小腸の肥厚・閉塞所見、また肝構造の全体的な不整をみとめた

小腸のFNAにてリンパ腫を否定したため、開腹手術をおこなった

 

閉塞所見がみられた小腸部位は硬く変化し、またその部位の前後は虚血壊死がみられた

病変・虚血部位を含んだ小腸の切除を行った

また、肝臓尾状葉に肉眼的変化もみられたため、切除生検を行った

小腸の病理検査は小腸腺癌(マージン陰性)であり、肝臓は小腸腺癌の転移病巣であった。

犬の腸管の腫瘍はまれであるが、その中でも腺癌はリンパ腫に次いで発生の多い腫瘍である。

腺癌は腸間膜リンパ節、肝臓、脾臓、大網、腎臓、肺への転移が認められることもあり、また、癌性腹膜炎を起こすこともある。

 

 

イヌのアジソン病(副腎皮質機能低下症)

4歳のトイ・プードルが午後外来の最後の時間に『食欲がない』との主訴で来院された。1ヶ月前と比べると体重が600 g減少していた。身体検査では脱水しており、レントゲン検査では心陰影が縮小していた。血液検査ではリンパ球増多、グロブリン値上昇、コレステロール値の減少、CRP値が上昇していた。電解質異常もあり低ナトリウム血症となっていた。超音波検査では副腎の厚みが1 〜 2 mmと薄くなっていた。

ここまでの検査でアジソン病(副腎皮質機能低下症)を疑いACTH刺激試験を行う事とした。この検査は特殊な注射を投与する前後で採血を行い、血中のコルチゾールという物質を測定するもので外注検査となるためにすぐに結果はでない。しかし、できる限り早く処置を行わないと『アジソンクリーゼ』という重篤な状態に陥ってしまうため、この日はアジソン病と仮診断し治療をスタートした。

治療としては、フルドロコルチゾンおよびプレドニゾロンの内服を主軸とし、脱水状態により点滴を行った。後日報告されたACTH刺激試験の結果(コルチゾール値)は、測定限界以下であったためアジソン病と診断された。
治療開始後すぐに食欲・元気ともに元に戻り、体重も一気に増加した。

 

 

アジソン病は緊急疾患になり得る怖い病気の一つです。副腎という臓器からのホルモン(特にミネラルコルチコイド)が不足する事で電解質異常が引き起こされ、低ナトリウム/高カリウム血症の状態になります。特に高カリウム血症では不整脈のために死亡してしまうこともあります。

犬の赤血球増加症

1か月前より興奮すると酸欠状態になる、疲れやすいことを主訴に他院を受診され、血液が濃いこと(多血)を指摘されて瀉血処置を実施していた11歳の犬がセカンドオピニオンで来院した。

 

当院でのスクリーニング検査において、PCV67%(基準値37-62%)と赤血球の増加を認め、また腹部超音波検査では腎臓の大きさにおいて左腎>右腎が認められた。

エリスロポエチンは<0.6 mIU/ml(基準値1.3-13.4)と低値を示した。

 

当院でも非鎮静下にて瀉血処置を実施した。

 

飼い主様には腎臓における腫瘤性あるいは浸潤病変の有無を確認する精査を提案したが、ご希望されなかったため、ご相談したうえで赤血球増加症の分類の真性多血症と仮診断してヒドロキシウレア療法を開始した。

 

その後の経過として、4日後はPCV54%、2週間後はPCV42%と基準値になり、一般状態も安定している。