14歳のM.ダックスフンドの乳腺腫および乳腺良性混合腫瘍

最近になって、下腹部の乳腺が腫れてきたので出来るだけの治療をして欲しいとの主訴で来院したミニチュアダックスフンドに、卵巣子宮全摘出および乳腺の全摘出手術を実施した。4対の乳腺だったため、それほど大きな傷に成らなかったが、漿液貯留が考えられたため、陰圧式のドレインの装着をした。写真①は術前、写真②は切除した組織全体、写真③は術後。病理組織検査結果は乳腺の良性混合腫瘍と乳腺腫でいずれも良性だったため、切除しておけば再発や転移は起こらない。乳腺の腫瘍は50%が悪性、50%が良性と言われており、この子は見た目はとても大きな腫瘤だったが、ラッキーなことに良性のタイプだったため、切除しただけでその後の転移などの心配はない。

写真①

写真②

写真③

 

 

犬の前肢指間部の血管周皮腫

13歳半のプーリーの前肢指間部の腫瘤がここ1~2ヶ月で急に大きくなってきたので検査を希望で来院した。来院時の病変部(指間部の背側からの写真①、腹側からの写真②、正面からの写真③)を見ると背側の大きな腫瘤と腹側の小さな腫瘤が繋がっているように見える。背側の大きな腫瘤から針生検をして細胞診をしたところ、細胞の大小不同が著しく、類円形の大きな核や核小体を持つものや分裂像も見られ、多核の細胞も散見された。これらのことから悪性の何らかの肉腫を疑った。飼い主の方と相談した結果、根治目的の断指や断脚は希望されなかったので、完全切除が不可能な場所な為、切除バイオプシーあるいは最小限の切除縁の手術になることをご了解いただいた上で手術を実施した。写真④は術後10日目の抜糸時。

病理組織検査の結果は軟部組織肉腫の1つである血管周皮腫だった。この腫瘍は遠隔転移はほとんど無いが、局所で強い浸潤を示して増殖する腫瘍で術後の再発が効率に起こる。飼い主の方もご承知の上で今回の切除となったが、大型犬で13歳半と高齢なこともあり、再発時の抗癌剤の使用も希望されないため、限られた治療になりますが、飼い主様と一緒にワンちゃんの生活の質を重視した方法を選択して行くことになった。

写真①        写真②       写真③

写真④

 

 

 

 

 

犬の爪床部(爪周囲)の扁平上皮癌

11歳のアイリッシュセッターが最近時々後肢を跛行することがあるということで来院。よく診ると趾骨部の腫大と爪床部に角下を伴った腫瘤(写真①)があった。この部分は圧痛があり、肉球の腫張(写真②)も伴っていた。そのため病変部のX線撮影をしたところ、末節骨(爪の付け根の骨)が融解している(写真③④)ことがわかった。この腫大した病変部の針生検の細胞診では細胞の原形質が割に青く染まり、大きめな核を持ったいわゆる幼若な扁平上皮が多く見られたため、扁平上皮癌の疑いがあった。飼い主の方と相談の上、早期の腫瘤を含んだ中趾骨遠位の関節からの断趾手術に踏み切った。(術後写真⑤)

病理組織検査の結果はやはり扁平上皮癌であった。この腫瘍は完全に切除され、周囲の血管内に腫瘍細胞は見られなかったので、良好な経過を示す可能性もあるが、爪周囲の扁平上皮癌はしばしば所属リンパ節や肺への転移も知られているため、念のため定期的な検査をしていく必要があるでしょう。

写真①

写真②

写真③

写真④

写真⑤

 

犬の約10cmのうっ血を伴った副脾

12歳になるラブラドールレトリーバーが健康診断のX線検査で、前腹部に腫瘤(マス)があることがわかった。レントゲン検査では何も異常のなかった3ヶ月前の写真①と今回のレントゲン写真②。超音波検査で8~10cm近いマスとして確認できた写真③と④。このマスは肝臓や脾臓との接点はなく、当初は腸間膜根のリンパ節の腫大か、何らかの腫瘍ではないかと考えた。しかし飼い主との相談の結果、開腹して外科的切除生検をすることになった。実際に取り出してみると大網内に包まれた円形に近い形状のマス(写真⑤)が存在し、いくらかの癒着を外して摘出(写真⑥)した。取り出したマスの割面(写真⑦)。結局、病理組織検査の結果はうっ血を伴う副脾の疑いということだった。今まで避妊手術や他の開腹手術でたまたま見つかった副脾は1cm前後のものが多かったので、今回のように10cm大の副脾は見たことがなかった。

写真①3ヶ月前

写真②今回

写真③

写真④

写真⑤

写真⑥

写真⑦

 

ゴールデンレトリーバーの前肢の中手骨の滑膜乳頭状過形成

8歳近い雌のゴールデンレトリーバーの左前肢の甲の部分の腫れに、飼い主が昨日気付いて来院した。多少の熱感はあったが、特に跛行もなく、その部分の触診では嫌がる程度だった。

病理検査結果:診断病理医のコメントは滑膜細胞表面に少数の骨片や軟骨片が付着しており、患部の骨や軟骨の表面が剥離したことによる滑膜炎や滑膜の過形成が起きた可能性があるということでした。つまり何らかの鈍性の外傷により、骨や軟骨に損傷がおこり、二次的に滑膜が過形成を起こして、軟部組織の腫脹を来たしたと考えられる。

写真①腫大した患部

写真②レントゲン写真

写真③ウェッジバイオプシーの採材したものと術後

 

猫の細菌感染による化膿性肉芽腫性腸炎に腹膜炎を併発した症例

5歳の日本猫が他院にて治療を受けていたが、一向に食欲元気がないということで転院された。40℃の熱があり、白血球増多(中毒性好中球の出現)などから重度の炎症(感染症など)が疑われた。腹部の触診で中腹部に7~8cm大の腫瘤を触知したので、レントゲン検査をしたところ、右側中腹部に大きなマス(写真①)があった。腹部全体がスリガラス状で小さなガス像(写真②)が腹腔内に存在していることから腹膜炎の疑いもあった。状態が悪くなっていたので、その晩に緊急手術を実施したところ、腹腔内には膿様の液体の貯留(写真③)があり、腫瘤は腸間膜や大網が癒着(写真④)していた。腫瘤のあった場所は小腸と大腸の境目つまり盲腸のあたり(写真⑤)に形成されていた。従って回腸の一部と腫瘤のあった盲腸および結腸の一部を切除(写真⑥は切除したもの)した。回腸と結腸の断端(写真⑦)を吻合させた後が写真⑧。摘出した腫瘤と腸管に割面を入れたものが写真⑨。その割面のスタンプの染色したものが写真⑩で好中球とマクロファージが多数存在する炎症性の腫瘤と考えられた。病理組織検査では細菌感染による化膿性肉芽腫性腸炎という診断だった。

写真①         写真②

写真③

写真④

写真⑤

写真⑥

写真⑦

写真⑧

写真⑨

写真⑩

 

 

 

猫の胸腔の悪性中皮腫

14歳の日本猫が約1ヶ月前から食欲が低下、1週間前より元気食欲なく、呼吸が速く荒いということで来院。血液検査では白血球増多(好中球増加)ストレスによるやや高血糖、やや低蛋白、それ以外は正常だった。呼吸速迫と聴診で心音が聞こえ難いということがあり、X線検査をしたところ、写真①の左のように胸腔内に液体が貯留していることが分かり、胸腔から穿刺により380ccの液体を排液することができた。写真①の右は胸水の抜去後。この採取した胸水の直接塗抹および沈査の塗抹標本を鏡検してみると多数の中皮細胞(写真②)があり、好中球やマクロファージといった炎症細胞がほとんど無いことから、中皮腫であることがわかった。病理医にも見ていただいたところ、4つ以上の核の悪性所見が何とかクリアーした(写真③の中央の中皮細胞は核の分裂像)ので、悪性中皮腫と診断して良いでしょうという結論だった。いずれにしても高齢であることと、猫の中皮腫の化学療法(胸腔内投与)による治療は、犬で使われているシスプラチンは猫には毒性が出やすいため使えません。恐らく同じ白金製剤のカルボプラチンを使うことは出来そうですが、効果がどの程度あるかのエビデンスは症例数が少なく、ほとんど皆無に等しい。この猫さんは10日余りでまた胸水が貯まりだし80ccほど採取できたが、今後の化学療法剤の使用については飼い主の方と充分相談の上決定していくことになる。

写真①

写真②

写真③

雑種犬の尾の慢性炎症性肉芽腫の外科治療

数年前から尾の先端をかじったり、舐めたりしてしまい、色々な治療をしても治らないということで来院した。早期治癒をご希望でしたので、病変部を含めた断尾をして治療することになった。

下の写真2枚は術前の尾の病変部

下は尾根部から断尾をした術後の写真

 

猫の下顎の有茎皮膚弁(フラップ)による皮膚移植手術

2歳の日本猫が喧嘩による外傷が化膿して、排膿後大きな哆開創になって来院した。外用処置を続け、10日経っても際立った改善を示さないため(写真①)、飼い主の方と相談の結果、出来るだけ早い治癒をご希望のこともあって、皮膚の形成外科手術をすることになった。写真②は術後5日目、写真③は術後12日で抜糸をした時。その後数日で痂皮もとれて完治した。

写真①         写真②

写真③

 

8歳の犬の先天性耳道閉鎖

症例は8歳のイタリアングレイハウンドで、飼い主によると子犬の時から右耳の穴が無かったが、今まで何も異常なく経過してきた。ところが3ヶ月ほど前から右耳の辺りをさわると怒って咬み付こうとしたり、口を開けることが出来なくなってきた。特に最近になって食事を食べなくなってきたという主訴である。実際に診察してみると耳道が全く無く(写真①)触診により、耳介の軟骨はあるがそれに続く垂直耳道の軟骨が無く、水平耳道の位置から軟骨らしいものが触知される(写真②)。X線検査では耳道内の空洞が無く液体様の陰影がみられるくらいだったが、CT検査(写真③④)をしてみると、耳道周辺にも無構造のスペースがあり、血液検査で白血球増多(好中球増多)があり、細菌感染も疑われたため、膿瘍になっている可能性もあった。ただ3D画像のCTを見ると(写真⑤)骨胞は僅かな変形はあるものの、骨融解も目立つものはなく、構造は左右対称的に存在していた。

飼い主のご要望で手術をすることになったが、切開してみないと、分からない部分もあった。皮膚を切開し、術前に触知する軟骨様部分を露出した(写真⑥)。この軟骨は垂直耳道の一部だと思われる。この部分を切開すると中には分泌物や耳垢がぎっしり溜まっており(写真⑦)、まずはこの耳道内の耳垢の細菌培養・抗生剤感受性テストのサンプリングをしてから、温生食で耳道内を充分洗浄した(写真⑧)。耳道軟骨周辺は液体や膿様のものは存在せず、腫大したリンパ節や唾液腺が存在するだけだった。周囲の皮下組織は通常通り縫合し、軟骨を部分的に成形切除し皮膚と耳道壁を結紮縫合して終了した(写真⑨)。結論として非常に稀な症例だが、閉鎖環境にあった耳道内に耳垢が蓄積して起きた外耳道炎を伴った先天性耳道閉鎖と診断した。術後は順調に経緯し、4日後には退院した。写真⑩は抜糸直後。

写真①

写真②

写真③       写真④

写真⑤

写真⑥

写真⑦

写真⑧

写真⑨                                  写真⑩抜糸直後