尿管結石による尿管閉塞が起因した膿腎症を伴った猫に左腎臓及び尿管全摘手術を実施した1症例

FIV陽性の猫が元気、食欲無し、嘔吐を伴って来院。T40.5℃の高熱、好中球の左方移動と単球増多を伴う白血球増多、X線検査で左側尿管に2つの尿管結石、エコー検査にて水腎症・尿管の拡張と2か所の尿管結石を確認。静脈輸液及びABPCとENFXの静脈投与を2日間投与しても熱はあまり下がらず、一般状態もあまり改善しなかった為、3日目に開腹手術による左側腎臓尿管全摘手術を実施。術後翌日から熱が下がり始め、2日後には正常体温となり、食事を食べ出した。術後3日目の血液検査で腎パネルはすべて正常、白血球もほぼ正常になったため、静脈点滴から皮下輸液に切り替え、翌日から通院になり、順調に回復した。摘出した腎臓を分割してみると拡張した腎盂には膿性の粘性を帯びた液体が大量に出てきた。細胞診をしてみると大量の細菌と変性した核を持った好中球と細菌の貪食像が多く見られ明らかな膿腎症となっていた。恐らくもう1日~2日手術が遅れていたら、敗血症や腹膜炎などが併発して救うことが出来ない状況になっていただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腸管穿孔による腹膜炎と小腸の多巣性、化膿性肉芽腫性腸炎を伴ったフェレット

元気消失・食欲不振・嘔吐・下痢が続き、対症療法や輸液で治療してもあまり改善がみられず、エコー検査で小腸内で流動物の停滞が認められた為、探査的開腹手術を実施。すると小腸の一部に穿孔があり、対側の小腸壁がその部分に癒着していた。また他にも腸間膜が小腸に癒着していたが、そこは腸壁が帯状にクリーム色に変色していた。まず穿孔した障壁の穴を縫合して閉鎖し、変色していた小腸は切除して病理組織検査をすることにした。病理所見は多巣性、化膿性肉芽腫性腸炎という結果だったが、コメントの中にフェレットは猫伝染性腹膜炎ウイルスと類似した病変を形成することがあるので、コロナウイルス感染症の可能性があるということだった。

 

 

 

 

 

10歳の柴犬の健康診断で見つかった肝細胞癌

10歳の柴犬が毎年行っているフィラリア検査と一緒に健康診断を兼ねた血液検査を実施した。昨年までは全く異常がなかったが今回はALTとASTという2つの肝酵素が高値だったため、念のためX線検査と超音波検査を実施した。X線検査で腹腔内に針のような細い金属らしきものが認められたが、飼い主様は心当たりがないとのことだった。また超音波検査では肝臓の外側左葉に約2㎝ほどの低エコー部と、右葉に複数の1㎝台の低エコー部が認められた。次に針状異物が管腔臓器内か外なのかの区別と肝臓のマス病変の確認のため、検査センターにてCT検査を行なった。その結果、針状異物は管腔臓器の外側に存在していることが判明。また造影剤投与後のCT検査で約2.4㎝の腫瘍らしいものが1ヶ所と複数の嚢胞と思われるものが確認された。その後肝臓外側左葉にある2.4㎝の腫瘤の切除と針状異物の摘出手術を実施した。肝臓の摘出腫瘤は病理組織検査で肝細胞癌だった。マージンの血管内浸潤はマイナスだったので、とりあえず一安心だが、定期的な検査は必要だ。肝細胞癌は遠隔転移はほとんどないが、肝臓内に再発することはあり得るため、経過を見ながら定期検査をすることが大切だ。いずれにしても、今回はフィラリアの検査と一緒に健康診断をすることで、針状の異物と肝臓の腫瘍が発見でき、さらにこの針状異物と肝細胞癌を摘出することが出来たため、健康診断の有用性が改めて確認できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CT検査の画像:左上が針状異物の存在位置。その他は肝臓の腫瘤が赤矢頭、黄色の矢頭で示したところは嚢胞と考えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

犬の症候性てんかん(脳腫瘍による)

中年のフレンチブルドッグのてんかん発作で他院にて診断がつかず不安な為、お知り合いのご紹介でセカンドオピニオンを求めて来院した。脳以外の疾患からてんかん発作を起こしていないかを診断する為、完全血球検査・血液化学検査・X線検査・エコー検査等を実施し、ほとんどこれらの結果に異常が見られなかったので、脳の疾患が疑われたが、上部気道の問題があって、高度画像診断時の麻酔のリスクを心配され、飼い主様のご希望でまずはけいれん発作のコントロールをしていくことにした。その後ある程度けいれんのコントロールはできていたが、最近になって再度てんかん発作が目立つようになったため、MRI検査を実施したところ、下の写真のように前頭葉に塊状病変が存在していた。髄膜に沿った病変の為、髄膜腫が疑われるが、この犬種は神経鞘腫(グリオーマ)の好発犬種であり、髄膜腫は稀と言われている。飼い主様は当院まで車で3時間近くかかるところにお住まいな為、近隣の脳外科専門医がおられる病院で手術を受けていただくことになった。術後の病理組織検査の結果は髄膜腫ということだった。

 

 

 

 

 

 

てんかん発作を起こす原因には主に3つある。                   ①特発性(真性)てんかん:若い年代から発症し遺伝的素因                            ②症候性てんかん:脳腫瘍や脳炎や奇形                                ③反応性てんかん(脳以外の病気でてんかん発作を起こす)             これらを鑑別するにはまず脳以外の病気が無いかを各種検査により、ルールアウトして行く必要がある。そこで異常が無ければ脳の疾患ということになり、年齢が若ければ特発性てんかんとして、生涯治療をしていく必要があるし、年齢が中年~高齢であれば、脳の疾患を疑って、MRIなどの検査に進み、症候性てんかんのどのタイプかを診断して、それぞれに対応した治療をしていくことになる。

 

 

真性半陰陽の犬の避妊手術及びペニスの形態をした陰核部分の切除

メスの形態をした半陰陽の6か月のビーグルが、「陰部から突出したものをかなり気にして舐めたり、お尻をこすったりしている。不妊手術と一緒に突出したものを切除して欲しい」とのご希望があり、近医では手術ができない為、大学病院を紹介されたが、お知り合いのご紹介もあり、できれば当院で実施していただきたいと言うことで来院した。当院では以前に仮性半陰陽の手術経験はあるが、今回もそれと同様とは限らず、生殖器の形態も一様ではないこともご説明した上で実施した。子宮と卵巣の位置にあり、摘出した生殖器の病理組織検査結果:卵巣様組織は卵精巣(卵巣組織と精巣組織が共存している状態)であり、真性半陰陽と考えられる。膣から突出していたもの:陰茎骨を形成しているが、ペニスの正常構造の確認がされない発生異常組織。

 

 

 

膣から突出しているペニス様突起物

 

 

 

 

 

 

 

矢印は陰茎骨

 

 

 

 

 

卵巣と子宮のように見える生殖器

 

 

 

 

 

会陰部切開とペニス様突起物の切除

 

 

 

 

 

 

ペニス様突起物の切除

 

 

 

 

 

 

 

縫合を終えた時点の写真

 

ゴールデンレトリーバー(中年齢)の気胸

数日前から呼吸がおかしかったかもしれないが、昨日から明らかに呼吸が苦しそうということで来院。聴診上、左胸部の心音がかなり聞きとりにくかった為、X線検査を実施したところ、胸骨から心尖部が離れ、胸腔内に無構造のスペースが存在し、左の肺が収縮している画像が得られたため、気胸と診断し、すぐに留置カテーテルを使用し、漏れた空気を吸引し、その後低陰圧持続吸引機で完全に吸引できなくなるまで処置を続けた。その後酸素室にて安静を保った後、翌日レントゲン検査で漏れのない事を確認し、帰宅していただいた。肺のレントゲンで分かるくらい大きなブラ又はブレブが存在していた為、安静に勤めていただくように注意をさせていただいたが、退院後約1週間を過ぎた頃、再度以前同様の呼吸になって再来院した。今度は胸腔チューブを留置して漏れた空気を吸引し、その後状態が安定しているのを見計らって、応急処置として自家血を採取し、すぐに胸腔内にそれを注入し、穴の開いた肺の表面に血液が固まってシールしてくれることを目的に実施した。一時的に安定していたが、翌日になって再度気胸になったのと、胸腔チューブが閉塞して働かなくなったため、最終手段として肺葉切除しかないと考え、提携病院である日本動物高度医療センターに依頼して手術をしていただいた。CT検査の結果、X線検査でも見えていた大きなブラ又はブレブの存在が気胸の原因と考えられるということで、やはり肺葉切除以外に方法はなかった。術後の経過は良好で1週間ほど入院した後退院となり、現在も元気に過ごしている。

 

左のX線写真は初診時のラテラル像での気胸を示し、右は処置後心臓の頭側に大きなブラが見える

 

 

左のX線写真は初診時のVDでの気胸、右は処置後

 

下はCT画像で矢印の部分が大きなブラを示す

巨大食道症の犬

巨大食道症の犬

 

13歳の犬が「ここ数日吐いていて食欲がない」との主訴で来院しました。

 

身体検査にて可視粘膜がやや白く、重度の脱水がありました。また、吐き方を見ると嘔吐ではなく吐出(口や食道から吐き出すこと)であったため食道の疾患が疑われました。
血液検査では軽度の貧血、白血球数の増加や腎臓の数値(BUN、CREA)の上昇、甲状腺の数値(T4)が0.6μg/dlと低下していました。
レントゲン検査では消化管内には多くのガス貯留像があり、食道は拡張していました。

患者情報や検査結果を踏まえて巨大食道症と診断しました。

巨大食道症は副腎皮質機能亢進症や甲状腺機能低下症、重症筋無力症、腫瘍などの基礎疾患により惹起される場合や原因不明によるもの(特発性)があります。

オーナー様と相談により原因追求(基礎疾患の探査)は行わずに対症療法をしていくこととしました。

静脈点滴による脱水の緩和、消化管運動を亢進させる薬、食道炎・胃酸分泌を予防する薬、重症筋無力症の治療薬、甲状腺機能低下症の治療薬を同時に開始しました。

巨大食道症では食道の筋肉が機能しなくなっているために、食事が胃へと通過できずに食道内に停滞してしまいます。そのため、食事の際は器を高い位置に置くことで重力により食事が胃に流れやすくなります。さらに食後は抱き抱えて体を縦にするなど日頃の生活も工夫しました。患者様の協力もあり、定期的に皮下点滴をして食欲も戻り、吐出の頻度も劇的に少なくなりました。

 

巨大食道症は食道の筋肉が何らかの原因により機能を失い、食道が拡張し蠕動運動が低下することで、食物が食道に滞ってしまうことが問題となります。そのため吐出を繰り返し、吐出したものを吸い込むことで誤嚥性肺炎を起こします。
どうしても吐出が治まらない、ご飯も食べられない場合は、胃チューブを設置しチューブからご飯を入れて管理することもあります。

日本猫の表皮に散在したボーエン病/ボーエン様疾患が皮内扁平上皮癌や扁平上皮癌となっていた症例

体表の肩甲部や上腹部や四肢に散在した皮膚病変がここ1ヶ月くらいで急に増大傾向になって来たということで来院。肩甲部の病変は大きな角化物(横軸2cm高さ3センチ)になっており、右胸壁の皮膚病変域は十数センチにわたり、複数個所に散在し角化していた。四肢の皮膚にも角化物を伴った病変が散在。切除バイオプシーを4か所行ない病理組織検査を行った所見はいずれの皮膚病変もボーエン病/ボーエン様疾患であり、1ヶ所で深部に浸潤する扁平上皮癌、その他は浸潤性を伴わない皮内扁平上皮癌になっていたというかなり珍しい症例だが、当院では皮膚のボーエン病は今回が2症例目となる。

 

 

 

 

 

フェレットの胃内の毛球症と膵臓の腫瘤と脾臓のマスの外科手術による切除

老年のフェレットが元気消失、慢性嘔吐と下痢を呈していた為、血液ルーチン検査とX線検査・エコー検査を行ったところ、脱水と腎機能低下、低血糖、脾臓の低エコー部の存在などが判明したため、静脈輸液をメインとした治療を実施した後、状態が改善傾向になってから、触診で判明した胃内異物の摘出手術と必要があれば脾臓摘出、膵臓のチェックにより、腫瘤などがあればそれも摘出することになった。

胃切開により、胃内異物(毛球)摘出

 

 

 

膵臓の2か所に硬い腫瘤を触知したためいずれも切除           (病理検査:膵臓結節性過形成)

 

 

脾臓には複数の隆起部が認められたため、脾臓全摘出手術を実施。(病理検査:うっ血並びに髄外造血)

 

猫の会陰尿道瘻形成術

猫の雄、特に去勢した雄猫に多い尿道塞栓症や尿道結石による尿閉は、今回のように大きい結石がペニスの先端付近に閉塞し、さらに頭側に複数の小さめの結石ががっちり重なって閉塞してしまうと、逆行性に水圧をかけたり、超音波振動を利用した方法も難しいので、最終手段として会陰尿道瘻形成術を行なうことになる。膀胱圧を下げるために穿刺により尿を排出させた後、点滴により腎機能を改善させつつ、手術を実施した。BUNやCreの数値はオーバーだったが、術後3日目にはほぼ正常になり、元気や食欲も改善してきた。術後の食事療法は大切。

左写真:術前10日前に存在した膀胱結石

右写真:ペニスの全域に結石が詰まっている。一番大きな結石が先端に存在。

 

左写真:ペニスの尿道切開して結石を取り出したところ

右写真:尿道球腺まで露出して、尿道を切開し粘膜と皮膚を縫合して終了

下は術後の写真