14歳ラブラドール・レトリーバーの脾臓の起源不明肉腫(線維組織球性結節)

日常生活で健康上異常のない14歳のラブラドールレトリーバーが健康診断のX線検査と超音波検査で脾臓の腫瘤が見つかり、脾臓の摘出手術を行なった。摘出した脾臓にできていた腫瘤は2ヶ所で大きな腫瘤は起源不明の肉腫という病理組織検査結果だった。もう1つの腫瘤は結節性過形成で腫瘍ではなかった。この大きな腫瘤、起源不明肉腫は診断名として別に未分化肉腫あるいは悪性線維性組織球腫などと言われるそうだが、海外では線維組織球性結節と呼ばれているそうだ。臨床的経過をグレード分けしている(腫瘍内を占めるリンパ球成分の量によるグレード分け)文献もあり、それによると1年生存率がグレードⅠで61%、グレードⅡで57%グレードⅢで32%と報告されており、この子はグレードⅢに相当する悪性腫瘍となり、今後は肝臓転移など予後要注意、定期的検査の必要性ありということになる。

写真は術中と術後の脾臓の腫瘤を示す。白い腫瘤が肉腫部分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前十字靭帯断裂のTPLOによる修復手術

ラブラドールレトリーバーが海岸でボール投げをして遊んでいて、急に左後肢を跛行し、その後も肢を挙上したままになってしまった。触診によりドローワーサインという大腿骨と下腿骨の関節部分でのズレが触知できた。またX線検査での下腿骨の前方へのズレも確認できたため、前十字靭帯断裂という診断をした。手術はTPLOという下腿骨の脛骨の関節面の角度を変える手術になる。2時間半程の手術になったがCアームX線装置で術中検査をし、術後も通常のX線検査で確認をしたが、とてもうまく修復されていた。

膝関節を露出し、断裂した前十字靭帯の処理と剥離していた半月板軟骨の切除をおこなった。

 

 

大腿骨と脛骨に固定具を装着し、脛骨近位を切断する半円形の器具を使用しているところ。

 

 

CアームX線装置で脛骨の角度を決めて、プレートと螺子できちんと固定されているかの確認をした。

 

 

術後のX線写真で膝関節が良い角度に修復されているのが分かる。

猫の免疫介在性汎血球減少症

最近になって体重が減少、1週間前から元気食欲なく、たまに嘔吐、軟便という主訴で来院。体重は3年前4.7kgあったものが、現在3.7kgに激減していた。血液検査では赤血球数110万/μlHCT6.3%、総白血球数3070(好中球210、リンパ球1970、単球890、好酸球0、好塩基球0)血小板5万と全ての血球が著しく低下していた。またウイルス検査では猫エイズウイルス陽性で猫白血病ウイルスは陰性だった。尿検査では潜血があり、尿比重が脱水をしているにもかかわらず低かったため、膀胱炎や腎機能低下があることが推測される。便検査では回虫卵が検出され、回虫症で嘔吐や軟便があった可能性がある。重度の汎血球減少症の原因を知るために、飼い主の方に説明し、同意が得られた為、骨髄検査を実施した。骨髄のバイオプシーをして、採取した骨髄をスライドグラスに塗抹し、染色して鏡検したところ、赤芽球系が全体にやや低形成で特に幹細胞以下の芽球が少ない、また骨髄系(顆粒球系)は正常の分布をしていた。血小板の元の巨核球はほぼ正常の数が分布していた。そこで言えることは骨髄内では赤血球のやや低形成はあるが赤血球は作られており、好中球も血小板も正常に作られているにもかかわらず、末梢血中にごく少ないと言うことは、免疫介在性にこれらの血球が壊されていることになる。勿論骨髄内には腫瘍細胞は存在しないし、骨髄の細胞充実度もそれほど悪くはないので、骨髄腫瘍でも骨髄癆でもない。骨髄内の細胞形態の異常もないので、骨髄異形成症候群でも無いようなので、診断名は免疫介在性汎血球減少症ということになる。治療はまず輸血を実施し、その後徹底した免疫抑制剤を使用するが、猫なのでまずはプレドニゾロンを4mg/kg投与から始めた。現在の状態は好中球がいくらか増え、食欲元気が出てきて、順調に経過している。

 

猫の消化器型リンパ腫

13歳の日本猫が2日前から下痢と食欲廃絶で来院した。飼い主によると1ヶ月前より痩せてきたということだった。以前は3kgあったのが現在1.8kgとなっていた。腹部触診で中腹部にマス(腫瘤)が触知された為、ルーチン検査と画像診断を一通り実施した結果、軽度の貧血と白血球が73000とかなりの増加(好中球の左方移動・単球増多・好酸球増多・リンパ球増多)がみられた。また中腹部のマスは腸管であることが分かり、腸管壁の重度の肥厚があった。エコー検査で構造上この部分は回盲結口であることがわかった。またこのマスは炎症性の肉芽腫や腫瘍が考えられたが、小さめの石のような異物も腸管に存在していたことから、通過障害も考えられたので、飼い主の同意の下、開腹手術になった。マスは盲腸部に存在しており、約4cmほどの腫瘤であった。摘出手術はマスの前後5cmほどのマージンをとって切除した。その後腸管マスの割面のスタンプ標本を染色して鏡検したところ、沢山のリンパ球と好酸球が存在していた。リンパ球は中リンパ球が主体だった。いずれにしても腸管にあれだけ多くのリンパ球があること自体が異常であり、リンパ腫の可能性が高かった。術後は一般状態は急速に改善し、2日目からは流動食を完食するようになった。但し、回腸・盲腸・結腸をトータル15cm程切除しているため、下痢はしばらく続くが、来院時の水溶性下痢よりは少しづつ改善してきている。

病理組織検査結果:消化器型リンパ腫。グレード分類では Hight -intermediate grade lymphoma つまり分化型としては低~中分化型リンパ腫ということになり、悪性度の高めのタイプのリンパ腫と言える。

この先はPCR・遺伝子検査で、クロナリティーを調べることによりTリンパ球かBリンパ球かを確認することで化学療法の選択と予後や寿命がある程度予測できる。      術後8日目に退院し、クロナリティー検査が出るまでの間ステロイドで治療をすることになった。

 

腹部ラテラルX線検査

中腹部のマス及び1.5cm程の異物(矢印)

 

 

超音波検査

回盲結口部の空腸壁と盲腸壁が肥厚している

 

 

 

超音波検査

空腸壁の肥厚

 

 

 

 

超音波検査

空腸内の異物

 

 

 

 

回盲結口部の腫瘤

 

 

 

 

腸間膜根のリンパ節の腫大

 

 

 

 

腫瘤を含め15cm切除した

 

 

 

 

術後の腸管縫合部が見える。

 

 

 

 

腫瘤の横断割面を示す

肺挫傷で血胸になったトイプードル

中年のトイプードルが、飼い主の方がご自分の足が不自由だったため、転んでしりもちをついたところにたまたま居て、下敷になり、動けなくなった。病院に担ぎ込まれたときにはショック状態で、舌の色は蒼白で浅い頻回呼吸になっていた。静脈確保と輸液療法でショックの治療をし、安定したところで、レントゲン検査をしたところ胸腔内に大量の液体があり、肺が虚脱していた。エコーガイドですぐに胸腔の液体を採取したところ、血液であることがわかり、肺挫傷により血胸になっていたことが判明した。安静と止血治療と酸素化をはかったが、じきに呼吸停止となり、人工呼吸で一旦戻ったが、一時間もしないうちに再度今度は心肺停止となったため、心肺蘇生術を実施し、再度、心拍・呼吸が復活した。しかし三度目の心肺停止が起きた後は気管チューブから血液が出てきたため、飼い主の意向もあり、蘇生処置を中止した。                      どうしようもないアクシデントだったため、飼い主の方も何とも言えない、やりきれない心境だったと思います。

 

 

 

 

 

 

 

上の写真右が以前の正常の胸部

下の写真の下が以前の正常の胸部

症状発現から2週間で亡くなった小型犬

12歳のシーズーが5月の健康診断で僧帽弁閉鎖不全による慢性うっ血性心不全がある以外は、ほとんど異常がなく、胸部X線検査(写真①)でも異常がなかったが、8月中旬になって呼吸が荒くなって元気がないということで来院。この時点では肝酵素の中等度上昇と白血球の軽度増多くらいだったが、胸部のX線検査(写真②)では肺全体に肺胞と間質性の混合パターンと粟粒性の細かいマスが混在した3ヶ月前とは全く異なる所見だった。飼い主の方は高齢で心臓も肝臓も悪いので、抗癌剤などの化学療法は望まず、苦痛のない最期になることを望まれました。そのためバイオプシー検査などもせず、酸素室のレンタルをして、自宅で過ごさせることにした。途中2回ほど診察や往診をしたが、最終的に症状が出てから2週間後に自宅で息をひきとった。亡くなるときは思っていたよりも短時間であまり長く苦しむこともなかったということで、飼い主の方も安堵の表情だった。

いずれにしても、僅か3ヶ月で一気に進行した肺の腫瘍だったが、非常に珍しいとは言え半年1回の健康診断をしていても間に合わないような疾患もあることを知っておいていただきたい。

写真①

 

 

 

 

 

 

 

写真②

ラブラドールの顔面神経麻痺に鍼治療で改善。

12歳のラブラドールレトリーバーが、数日前からあまり動かなくなり、顔つきがおかしくなったということで来院。一通りの身体一般検査や血液のルーチン検査やX線検査には特別な異常はなく、左側の顔面神経麻痺のみの症状が見られた。脳神経の何らかによる疾患であることだけは分かるが、この先はCTやMRI検査が必要であったが、飼い主の方はそこまでを希望せず、自然療法の1つである針治療を望まれましたので、実施してみたところ、約2週間程でみるみる良くなって行き、4週間目には見た目には全く正常なほどに改善した。下の写真は施術中の様子。

 

中年のミニチュアダックスフントのソケイヘルニア内の子宮蓄膿症

 

 

以前にも数頭経験したことがありますが、今回はKDPで保護されたミニチュアダックスで、公園にリードを縛りつけたまま、捨てられたという可愛そうなワンちゃんでした。恐らくこの様な病気になっていたので、捨てていったのかもしれません。健康状態は悪くぐったりしており、低体温と血液検査で白血球の増多と左方移動、ソケイ部に大きなヘルニアがあり、超音波検査で子宮と思われる管腔臓器に液体の貯留があったため、手術になった。静脈点滴をすぐに開始し、その日の夜に手術となった。切開してみるとやはりソケイ部内に子宮全体が入り込んでおり、すでに膿がソケイ部内に漏れ出ていた。卵巣子宮を結紮離断し、ヘルニア内の生食による洗浄をした後、ヘルニア孔を縫合閉鎖し、通常通り皮下皮膚の縫合。次に正中切開により開腹し、腹腔内に漏れた膿を温めた大量の生食で洗浄を繰り返し、最後に閉腹し、通常通りの皮膚縫合で終了した。術後の経過は良好で次第に体力は戻ってきている。

写真①術前       写真②ヘルニア部切開

 

 

 

 

 

 

 

写真③ヘルニア内の子宮

 

 

 

写真④卵巣子宮切除及びヘルニア輪の閉鎖後

 

 

 

 

 

 

 

写真⑤術後

アメリカンショートヘアーの副腎皮質腺癌

11歳のアメリカンショートヘアーの健康診断をした際に、X線検査と超音波検査により上腹部の左腎内側のマス(腫瘤・約2.5cm)を発見し、マスの血行動態をカラードプラーで確認して針生検を実施した。細胞診の結果、全体に大きな細胞質をもつ円形の大型上皮細胞が散在していたが、場所によって核の大小不同、大型の核仁、核膜の異常、2核のものなどかなりの異型性があり、どれも上皮系の悪性腫瘍を示すものだった。飼い主の方との相談で、場所的には副腎の腫瘍の可能性が高いが、別のものかもしれないことを理解していただいた上で、試験開腹、切除可能なら摘出手術ということで、手術を実施した。写真は上から①超音波所見②開腹した時の腫瘤と左腎③バイポーラを使った止血と腫瘤の鈍性剥離④腫瘤に入っている動脈の結紮をしているところ⑤腫瘤の切除後⑥腫瘤の割面写真⑦病理組織検査結果

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猫の股関節の成長板骨折整復術

飼い主が帰宅したら、1歳半の猫の左後肢の跛行に気付き救急病院に連れて行って検査をしてもらったが、原因がはっきりしなかった。当院で再度X線検査をさせて頂いたところ、股関節の大腿骨頭部の成長板骨折(写真①②)をしていることが分かった。手術方法は2つあり、骨頭切除かピンニングによる固定術があるが、飼い主の方はできるだけ正常な機能に戻してあげたいというご希望で、ピンニングによる手術をご希望された。但し、1ヶ月間の術後の安静は徹底する必要がある。特に高いところに飛び乗ったり飛び降りたりは禁忌となる。術中写真③④。術後のX線写真⑤⑥

写真①

 

 

 

 

写真②

 

 

 

 

写真③

写真④

 

 

 

 

 

 

写真⑤

 

 

 

 

写真⑥