犬の乳腺部の大型腫瘤(乳腺悪性筋上皮細胞種)

13歳の雌(未避妊)の雑種犬の乳腺に認められた長軸15cm短軸12cmの腫瘤について、セカンドオピニオンを希望して来院。近くの先生は避妊手術をしても寿命は変わらないので、必要ないと言われており、乳腺部の腫瘤は昨年11月くらいから急激に大きくなってきたが、高年齢なので手術は難しいと言われていた。しかし健康診断のため完全血球検査と血液化学検査を実施したが、ALT値の経度上昇とALP値の中等度の上昇以外、すべて正常値であり、循環器も異常なかった。ただレントゲン検査で左側の肺の中葉に直径1cm大の円形のマス病変があり、乳腺部の腫瘍の肺転移の可能性もあるため、悪性腫瘍であれば、大きな乳腺の腫瘍を外科的に切除をしても、寿命は変わらない可能性がある。またこの大きな腫瘍がいびつになってきたということと、内部が壊死しているような柔らかい部分や色が変色してきているので、近い内に表面が潰瘍化または壊死をして出血してくる可能性がある。そうなれば出血のコントロールが難しくなたり、悪臭がしてきたり、更に本人が痛みを伴ってくる。などのご説明をした結果、この腫瘤の切除を希望された。切除した腫瘤の病理組織検査結果は「乳腺悪性筋上皮細胞種」であった。肺のマス陰影についても、転移の可能性はあるとのコメントだった。

タオルの誤食(異嗜)により腸閉塞を発症した雑種犬

中年を過ぎた雑種犬がバスタオルを引きちぎって、飲み込んでしまい3日後に食欲廃絶、嘔吐、下痢の症状が出現し、来院した。単純及びバリウム造影によるレントゲン検査で胃内及び十二指腸にタオルと思われるものが存在。急遽手術となった。先ずは胃切開により、胃内にあったこぶ状のタオルを切り取ることで、十二指腸側に引きずり込ませた。次に十二指腸の中間部分でさらに切開を加え、そこから前後に停滞していたひも状タオルを引きずり出すことで、全てが摘出できた。

 

猫の会陰尿道瘻形成術

繰り返す膀胱炎があった中年の猫に膀胱内の結石(リン酸カルシウム)の一部が尿道に流れて尿道閉塞を起こしてしまったため、尿道に閉塞を起こした結石を膀胱内に戻した後、膀胱切開により、結石を摘出。その後会陰尿道瘻形成術により、尿道を広げる手術を実施。これにより再度結石が形成されても、小さなうちに尿道から尿と一緒に排出されることになる

 

犬の会陰ヘルニア整復術(浅殿筋フラップによる整復)

犬の会陰ヘルニアは自然治癒が無く、長期になると病態が悪化して、この症例のようにヘルニア孔に直腸や膀胱が入り込んで、排便や排尿に影響が出て、嘔吐や食欲廃絶になり、場合によっては命に関わることもある。このような重度の会陰ヘルニアではより確実な方法を選択する必要があるが、当院では以前から浅殿筋フラップを応用した整復手術で良い成績を得ている。会陰ヘルニアの手術はどんな方法でも再発の可能性があるが、その中でも手術時間が長くかかることもなく、再発もほとんどない。写真はレントゲン検査で、ヘルニア孔に大きな糞塊と膀胱が逸脱しているのが見てとれる。また左側の大きなヘルニアの整復手術中の写真では浅殿筋によりヘルニア孔の修復をしたところ。そして左側の皮膚縫合まで終えた写真。右側の会陰ヘルニアの整復も同様の方法で実施し、皮膚縫合を両側終えた写真が最後の写真

 

 

 

 

 

 

 

紀州犬の脾臓捻転

8歳の雄の紀州犬が急に虚脱して座り込んでしまった。貧血しているようでふらふらしているという症状で、緊急来院した。確かに粘膜の色は貧血色だが、聴診で心音が弱く、不整脈もあった。粘膜再充当時間が遅延し、ショック状態だった。腹部は全体に腫大しており、触診すると実質感があった。レントゲン写真とエコー検査で、巨大化した脾臓とカラードプラーにより、脾臓内の血管内の血流がほとんど無いことと、静脈内に血栓もみられた。以上のことから脾臓捻転と診断した。血液検査では中等度の貧血と白血球増多(好中球・単球増多)とストレスパターン、および血小板の中等度低下がみられたが、それ以外の異常は無かった。心電図検査では心室性頻拍が散発的に発現。来院してすぐに静脈点滴を開始し、ショックに対応した治療に入った。検査結果を確認し、脾臓捻転と診断してすぐ、開腹手術を実施。脾臓の捻転を確認し、捻じれを戻しても脾臓の黒ずんだ色は戻らなかった為、脾臓の摘出手術を行なった。他臓器に異常がないことを確認し、閉腹。その後は翌日から食事を食べだし、歩いて外でトイレができるようになった。その後は回復も早く4日目には退院することができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小型犬の腎細胞癌の1例

1週間前から血尿が出ているという症状で来院。薄めの赤色尿で頻尿ではない。尿が採取できなかったので、血液検査を実施、白血球の単球のみやや高値、SDMA24、それ以外はすべて正常。X線検査にて左腎の腫大。エコー検査で左腎尾方のマス(直径約6センチ)を確認。FNBによる細胞診をした結果、上皮系の悪性細胞(大小不同・核の悪性所見・かなり大型の細胞)であることが分かり、腎細胞癌と診断。飼い主様とご相談の上、副作用の少なめの分子標的薬を低用量のEODで実施することに。

好酸球性気管支肺症を疑った犬

『1ヶ月前から咳が出ていて、抗生物質などの治療をしているが良くならない』との主訴で来院された犬。

身体検査では発熱があり、肺野全体にクラックルが聴取され、肺野全体の病変が疑われました。胸部レントゲン検査では、肺野で間質パターン、気管支パターン、肺胞浸潤や気管支の拡張が見られました。

血液検査では、好酸球が顕著に増加していました。

ここまでの治療経過および検査で【好酸球性気管支肺症】を疑いステロイドによる治療を行なったところ1週間ほどで咳はほとんど出なくなり、レントゲン所見も改善しました。約1ヶ月かけてステロイドを漸減して治療を終了としました。

ラテラル像 左:治療後、右:治療前

VD像 左:治療後、右:治療前

好酸球性気管支肺症の確定診断には気管支鏡検査を行い、気管支肺胞洗浄などよる検体にて好酸球の浸潤を確認する必要がありますが、本症例はオーナー様と相談の上、試験的治療に入りました。経過は良好でしたが、再発に注意が必要です。

散歩中に蜂に刺された犬

夕方の散歩から帰宅して足を拭こうとしたら『蜂』が出てきて、その後、足を上げてしまい痛がっているとのことで来院。

肉球の間は赤く炎症を起こし、全体に腫れ上がっている状態でした。

肉球を良く観察すると、まだ針が残っておりそれを抜去してステロイド含有の軟膏を塗布し、舐めないようにエリザベスカラーを装着しました。また、患部への局所治療として軟膏、抗ヒスタミン薬とステロイド薬の内服を処方しました。2日後には患部の炎症はなくなり腫れも引きました。

 

足から出てきたハチ

 

肉球に刺さっていた針と毒袋

蜂に刺されるとハチの種類にもよりますが、針と共に毒袋が残されます。そのためその毒袋から毒が体内へ送り込まれるので早急に抜いてあげる必要があります。

犬猫の場合は、この針と毒袋が皮膚の色や体毛によって見えにくく、また、痛がって大人しく見せてくれないことがあるため動物病院で診察することをお勧めします。

他院で手術をした後重度の結膜と癒着していたチェーリーアイの整復手術

他院で手術をした後重度に結膜と癒着して眼球が見えない状態になっていたチェーリーアイ(左)の中型犬の整復手術を実施。第3眼瞼(瞬膜)は露出したままになってしまうが、瞬膜内側の大きく腫れたリンパ組織は元の位置に戻っている(右)

 

 

 

寒くなってくると多くなる雄猫の尿閉に外科手術「尿道瘻形成術」が必要になる時

雄猫の下部泌尿器疾患に罹患すると尿中の血餅やタンパク質から成る尿道栓で閉塞したり、膀胱内に形成する細かな砂粒状の結石がペニスの先端近くに集積して、尿閉になったりする。それらの尿閉に対する治療は緊急性があり、時間の経過とともに腎後性腎不全に陥るため、できるだけ早期に尿道にカテーテルを挿入し、閉塞物を取り去り、十分膀胱内を洗浄をする。しかし一時的に改善しても、結石予防の療法食がうまくいかなかったり、再発を繰り返す場合に、尿道瘻形成術を行うことにより、尿道を広げることで、小さな砂粒状や、1~2mmの結石は尿道を介して、排尿により結石が排出される。

 

 

術前の位置関係(上部に肛門、下部にペニス)

 

 

 

術中のペニスの付け根の尿道の広い部分を示す

 

 

手術直後の尿道留置バルーンカテーテル装着↓